序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2018年6月30日土曜日

シナモン

肉桂と呼ばれる樹木の樹皮を乾燥させたものを
にっき あるいはシナモンと呼び香辛料として用いる。

甘い香りを放つこの香辛料は、菓子はもちろん、
茶などの嗜好品を楽しむ際にも用いられる。

肉桂にも種類があり、シナモンとして
知られるものはセイロン種とシナ種である。

セイロン種はシナモンと呼ばれ甘く、
シナ種はカシアと呼ばれ
ピリっとした辛みが特徴的だ。

本邦の種は香りが弱いものの、
辛みは強いという。

シナモンとカシアは歴史的に混同されることが多いが、
肉桂の樹皮という点では同じため、
それも致し方ないことかと思う。

薬品として用いられてきた歴史は長く、
例によってミイラの防腐剤に使われていた。

漢代の薬学書にも桂皮として記されており、
正倉院にも桂心の名で納められている。

効能については、体を温め発汗を促進するとともに、
胃の調子を整える作用を持つ。

ただし、肝臓と腎臓に負荷をかける成分を持つため、
大量に摂取することは避けるべきである。

洋の東西を問わずシナモンは古代から高価な
薬品もしくは香辛料として扱われていた。

地中海では莫大な富を生むこの品を扱う商人が
仕入元などの情報を秘匿したため、
その神秘性によって更に価格が吊り上げられた。

シナモンを集める鳥と、狡知を尽くして
それを奪い取るサラセン人の話など、
荒唐無稽な物語も生まれた。

大プリニウスもワインに混ぜる香辛料として
カシアに言及している。

なお、ネロ帝は妻ポッパエアの葬儀に際しては、
大量のシナモンを用いて火葬にしたと伝えられている。

ヨーロッパ人がシナモンの正体を正確に知ったのは
おそらくマガリャネスがフィリピンに
到達してからのことだろう。

セイロン産の元祖シナモンはポルトガルの権益となり、
その後オランダ人が取って代わるが、
最終的にはイングランドの支配下に置かれた。

現在ではアメリカ人が特にシナモンを好む印象だが、
生産量が多いのは圧倒的にカシアの方である。

2018年6月29日金曜日

ミント

清涼感のある香りを持つ香草である。
本邦では薄荷と呼ばれていたが、
あまり聞かなくなった。

様々な種類が存在するが、
多くは香りの強いペパーミント類と
甘やかさのあるスペアミント類に分けられる。

薄荷の語源には様々あるが、葉を蒸留して
薄荷油を作ると、かさが少なくなることから
少ない荷物と名付けられたという説がよく知られる。

ミントの名はギリシア神話の妖精メンテーに由来する。
こちらも様々な話があるが、冥界神に恋慕され、
その妻によって雑草にされたという大筋は変わらない。

利用に関しては、列記するには多すぎるほど
様々なものに香りを着けている。

大プリニウスに習うなら一々並べ立てるべきだが、
特に意外なものがあるわけでもないし、
読み難くなるのでやめておこう。

香料として八面六臂の活躍を見せるミントだが、
薬草として利用することも可能だ。

解熱発汗作用と、胃部不快感解消が期待できる他、
近年の研究では過敏性腸症候群を改善できるらしい。

他にも消化不良、咽頭炎、下痢、風邪、頭痛にも
効能があると伝えられている。

本邦にも土着の薄荷が存在し、
江戸期の山陽で栽培が始まった。

明治期には山形県が一大生産地となり、
その後、北海道へと基盤が移され、
世界的な産地となった。

だが、インドやブラジルで安価に生産されるようになり、
更には合成メントールが誕生したことで、
本邦での薄荷生産は衰退してしまった。

2018年6月28日木曜日

亜麻

麻のように繊維が利用される植物である。
リネンの素材と言えば分かりやすいだろうか。

原産地は中央アジア西部であり、
ヨーロッパへと伝播した。

本邦では麻との付き合いが長く、
後から入ってきた亜麻は麻の一種として扱われたが、
植物種としては別物である。

なお、本邦では気候風土の関係から、
北海道が生育に適している。

小さな青みがかった白い花を咲かせる草なのだが、
繊維は茶色がかった金髪をイメージすれば
大体そんな感じのものだ。

前述のように亜麻繊維は麻繊維と混同されているが、
麻布は伸びにくく、亜麻布は柔らかい。
通気性と吸湿性に優れているところは似ている。

肌着や寝具によく使われ、リネンと言えば
寝具そのものを指すこともある。

また、リネンはフランス語ではランと呼ばれており、
このランで作られた高級下着をランジェリーと呼んだ。

古くは紀元前から用いられており、
ミイラを巻く布、キリストの聖骸布など、
遺体を覆うために使われた形跡がある。

現代のインドにおいても、亜麻布で包んだ遺体を
ガンジス川に流すと言われている。

大プリニウスはこの亜麻布を丈夫ではないが
高価なものと記しているが、
途中から綿の説明に変わっている。

ちなみに、亜麻の種から採れる亜麻仁油は
空気に触れると固まる性質から、
木材や皮革の仕上げ剤として使われている。

調理に利用した場合には、
いわゆる油臭さをあまり感じさせないことから、
密かな人気がある。

種をすり潰し、水を加えて乳化したものは、
卵の代わりに焼き菓子に利用でき、
軽やかな口当たりを楽しめるだろう。

生薬としては便秘に有効だ。

2018年6月27日水曜日

タルク

蝋や真珠のような光沢を持つ石である。

鉱物中最も軟らかいとも言われ、
滑石の名で知られている。

色は白が多いが、ピンク、薄緑、灰色など、
混ざった成分によって変わる。

様々な用途に活躍する物質で、
単体ではなく何かと混ぜて
使用されることが多い。

例えば、プラスチックに混ぜることで、
強度を増し、熱に強くすることができる。

また、塗料に混ぜることで、
光沢や粘度を調整することが可能だ。

なお、このタルク、鉱物ではあるが
生薬として扱われている。

古文書には体の余分な熱を取り除き、
利尿と抗炎症の作用があると書かれている。

口の渇きや尿路結石にも有効だとされ、
汗疹などの湿疹にも効くという。

生薬としては色が白いものが上質で、
軟らかいものほど薬効があるとされている。

こうした効能は実際に期待できるものであり、
本邦でも正倉院に納められた薬の中に
滑石が含まれている。

しかし、局法と呼ばれる現代の医薬品に
関する法律には、鉱物としての滑石とは
異なると書かれており、定義がずれているようだ。

時代によって書物に記された滑石に違いがあり、
別の鉱物なのではないかとも言われている。

鉱物名の滑石と岩石としての滑石も
同じ名前ながら異なるものを指すようで、
どうにも一筋縄ではいかない物質である。

2018年6月26日火曜日

馬鈴薯

じゃがいも のことである。
芽には毒がある。

名前の由来は諸説あり、馬の首からかける鈴、
馬鈴に似ているからとも、マレー半島を経由して
伝来したからとも言われている。

また、じゃがいもの名も、ジャワ島を経由して
伝来したからとも、ジャカルタを経由して
伝来したからとも言われている。

元々はアンデス高原でインカ人たちに
栽培されていたもので、トウモロコシ
並んで重要な食物とされていた。

それをイスパニア人がヨーロッパへ持ち帰るが、
当初は食べ方が確立しておらず、芽の毒にあたる
事例が続出し、食べ物と見做されていなかった。

鑑賞花として楽しまれていた馬鈴薯だが、
美食家で知られるプロイセンの王が
その育てやすさと栄養と美味しさに着目する。

自国民に半ば強制的に馬鈴薯を栽培させ、
戦争で荒廃し、食糧難となっていた国を救った。

痩せた寒冷地でもよく育つことから、
アイルランドにおいては、貧しい者の食事として、
馬鈴薯に依存した環境が形成されていった。

しかし、馬鈴薯の疫病が流行する。
ジャガイモ飢饉と呼ばれる事件は
凄まじい数の餓死者を出したことで知られる。

デンプン主体の炭水化物と思われている
馬鈴薯だが、実は野菜としての栄養価が高い。

特にデンプンで包まれたビタミンは
熱で破壊されにくいため、
吸収効率が良い。

このため、航海や軍隊において、非常に重宝された。

しかし、連作障害という、同じ畑で育て続けると
生育が悪くなる問題を抱えている。
連作時には疫病や寄生虫にも弱くなるようだ。

休耕と輪作が大切になってくるのだが、
こうした農業技術がなければ、
馬鈴薯の恩恵は受けられなかったかもしれない。

ところで、フライドポテトのことを
アメリカ人はフレンチフライ、
つまりフランスの揚げ物と呼ぶ。

特にフランス人が馬鈴薯の揚げ物を
好んだというわけでもなく、謎の呼称である。

英語のフレンチには、細長く切る、
という意味もあるそうだ。

もしかしたら、フランスは関係ないかもしれない。

イラク戦争が起きた際、アメリカに批判的だった
フランスへの抗議を込めて、
アメリカ人はこれをフリーダムフライと呼んでいた。

フランス人の与り知らぬところで
フレンチフライと呼んでおいて、
それを言い換えたところで何になるのだろう。

当時フランス人は、フライドポテトを考案したのは
ベルギー人なのだがと呆れていたとかいないとか。

ちなみに、同時にフレンチトーストも
フリーダムトーストと呼ばれていた。

大戦中にジャーマンポテトをリバティポテトと
言い換えていた例もあるので、
これはアメリカ人の趣味嗜好なのだろう。

2018年6月25日月曜日

窒素

大気の大部分を占める気体である。

無色透明無味無臭のため
その存在を感じ取ることは難しい。

フロギストンの探求過程で発見され、
この気体のみの空間にマウスを閉じ込めたところ、
窒息死したために窒素と名付けられた。

有毒空気とも呼ばれていた。

しかし、現代の我々ならわかることだが、
マウスが窒息したのは酸素が無かったためで、
窒素自体に毒性があるわけではない。

むしろ植物の生育に必要な物質で、
土中の微生物が空気中から取り込み、
化合物として排出、それを植物が根から吸収する。

ナイトロジェン、いわゆるニトロとも呼ばれているが、
これは硝石(ニトロン)を生み出すもの
という意味合いである。

単体の気体として存在する分には無害な物質だが、
化合物となるとその表情を一変させる。

有毒のアンモニア、強力な酸である硝酸、
そして、激しい燃焼を起こすニトロ化合物である。

黒色火薬の主体である硝酸カリウム、
下瀬火薬の主成分でもあったピクリン酸、
火薬の代名詞ともいえるトリニトロトルエン、
爆薬に欠かせない存在が窒素なのだ。

まだ実用化はされていないが、ポリ窒素と呼ばれる
特別な構造を持つ窒素分子は、現有の爆薬の中で
最大の威力を持つものよりも更に強力だという。
ただし、核爆弾は除く。

無毒無害、意識することもない空気、窒素と、
爆薬との対比はなかなか面白いものである。

2018年6月24日日曜日

モロヘイヤ

北アフリカで大昔から栽培されている植物だ。
縞綱麻(しまつなそ)とも呼ばれる。

黄麻に近い種類であり、これらの植物から
とれる繊維をジュートと呼んでいる。

あまり伸縮性がなく毛羽だった繊維で、
保温性に優れているが、耐久性は低い。
南京袋の素材である。

果実には毒があり、
食べると心臓の鼓動がおかしくなる。
毒矢にも使われていたほどだ。

だが、葉にはそうした毒は無く、
野菜として利用されている。

歴史は古く、エジプトの古代王朝時代から
独特のぬめりがもたらす食感が好まれてきた。

何をしても良くならない病に悩んでいた王が、
モロヘイヤスープを飲むようになったところ、
次第に快癒し、治ってしまったという逸話も残る。

おそらくこれは、モロヘイヤに特別な
薬効があったわけではなく、
不足していた栄養素が補われた結果だろう。

本邦では冷戦の末期頃に知られるようになり、
一時は大ブームにもなった。

現在では各地で栽培もされており、
どこでも買えるようになっている。

食べ方は、お浸しにするか、
スープ類に入れるのが良いだろう。

旬は初夏から秋にかけてである。

2018年6月23日土曜日

紫陽花

環境によって青から赤紫にかけて
異なる色の花を咲かせる植物である。

花は小さなものがまとまっており、
装飾花が毬状になる西洋紫陽花と、
周りを縁取る額紫陽花がある。

なお、西洋紫陽花も額紫陽花も
生物種としては同じであり、
品種の違いでしかない。

また、本邦本来の品種は本紫陽花というのだが、
見た目は西洋紫陽花と変わらない。

というのも、西洋紫陽花自体が、
元々本邦から大陸へ渡り、
西洋へ持ち込まれたものだという。

紫陽花の漢字は、本来ライラックなどの
他の花の名だったものが
誤用によって定着したという説がある。

アジサイの語源は集まる藍色だと言われている。
味狭藍と書かれている古文書もあり、
昔はこの花を青いものだと認識していたようだ。

だが、紫陽花は通常であれば赤紫色である。

土壌に含まれるアルミニウムを取り込むと、
色素が青色へと変化する。

よく土が酸性なら青、アルカリ性なら赤と言われるが、
これは確かにそうなのだが正確ではない。

土の酸性度が直接色を決めているのではなく、
アルミニウムが溶け出すかどうかが関係する。

酸性度の強い土壌であっても、
アルミニウムが乏しければ赤紫色のままである。

注意深く観察してみると、
青色だった花が次第に赤みを帯びていく
ことに気付けるかもしれない。

この変化は色素が自身の持つ酸によって変質するためで、
土壌とは関係なく起こる現象である。

ちなみに、この植物を食べることはできない。
毒があったりなかったりするためだ。

どうも個体差があるらしく、無毒のものもあるのだが、
含まれている場合のことを考えて食べない方が良い。

そもそも、硬さ、香り、味、いずれも食用に向いておらず、
特段栄養価が高いわけでもない。
食べる理由がないのだ。

毒は青酸系の猛毒であるものの、
含有量が少ないため、
死に至るほどではないようだ。

それでも、摂取してしまえば、
苦しい嘔吐や下痢に見舞われることだろう。

夏の料理に清涼感を与えるため、
飾り付けとして葉が皿に盛られていることがあるが、
あまり良いアイデアではないということだ。

ところで、この紫陽花の葉だが、
用を足した後に尻を拭く用途で使われていた記録がある。

2018年6月22日金曜日

ミルメコディア

蟻の砦とも呼ばれる。

マングローブなどの樹木の幹に着生し、
樹上で育つ宿木のような植物である。

この種類の植物の根は地面に届いておらず、
着生している樹木に突き刺さっているわけでもない。

大きく膨らんだ根の内部には細かい穴が空いており、
ちょうど蟻の巣のようになっている。

そう、驚くべきことに、ミルメコディアは
自身の根の内部を巣として蟻に提供しているのだ。

蟻の糞や老廃物、食べ残しは彼らの養分となり、
下手に痩せた土壌に育つ植物よりも
良い暮らしをしているように見える。

また、蟻は自分たちの巣である
ミルメコディアを守ろうとする。

どういうことかというと、
この植物を害する存在を蟻が襲うのである。

このような蟻と共生関係にある植物を
アリ植物と呼ぶのだが、意外なほど多く存在する。

ミルメコディアだけでも様々な種類があり、
他にもセクロピア、ポリポディウム、レカノプテリス、
ディスキディア、コルタルシア、トリプラリス、
ヒドノフィツムなど実に多種多様だ。

アカシアや胡椒にも蟻が住まうものがあるあたり、
アリ植物は案外メジャーなのかもしれない。

面白いことに、特定の奇異な種類だけが
このような特徴を持っているわけではない。

シダやタデ、アカネやヤシなど、様々な種類の植物が、
それぞれ独自の方法で蟻と共生している。

蟻を招き寄せ、蟻に守られて暮らす生き物は少なくない。
だが、自分の体を巣として提供するというのは
植物ならではの選択だろう。

2018年6月21日木曜日

アルゼンチンアリ

最も厄介な被害をもたらす獰猛な蟻である。

本来は南アメリカの平原に暮らす蟻で、
最大の特徴は女王蟻が複数いることである。

決まった巣を作らず、様々な隙間に入り込み、
そこで卵を産み幼虫を育てる。

雨季になると地面が水没する環境に適応した結果で、
複数いる女王蟻の一部が羽蟻を率いて飛び立ち、
新たな巣を作り出す。

こうしてテリトリーをどんどん増やしていくのだが、
本来の生息域では縄張り争いが激しく、
アルゼンチンアリ同士で殺し合うためさほど問題がない。

問題となるのは海を越えて他地域に
侵入したアルゼンチンアリである。

本場のアルゼンチンアリは例えるなら様々な部族がおり、
部族間の争いに終始している状態だが、
余所では一つの部族が一致団結して
勢力を拡大していくことになる。

ただひたすらにテリトリーの拡大に努めるわけだ。
その結果、凄まじい規模のコロニーが誕生する。

オーストラリアは既にアルゼンチンアリに
占拠されていると言っても過言ではない。

アルゼンチンアリが具体的にどのような
被害をもたらすのかを紹介しよう。

まず、果実等の食害が挙げられる。
大挙して訪れた彼女たちによって、
果樹園は大被害を被る。

そして、在来の蟻の駆逐もまた深刻だ。
彼女たちは他の蟻の巣へ攻め込み、
幼虫や卵を餌とする習性を持つ。

この獰猛さゆえに、元々生息していた蟻たちは
地域での絶滅に追いやられる。
その結果、生態系が崩れるのだ。

また、アルゼンチンアリは都市部を好む。
巣となる隙間が非常に多いためだ。

電子機器の中に入り込み、
中の基盤の上をうろつくわけだが、
そんなことをすればショートが発生する。

農業を破壊し、生態系を破壊し、電子機器を破壊する。
これほど厄介な被害をもたらす虫も珍しいだろう。

なお、現在、アルゼンチンアリを駆逐する方法は無い。

2018年6月20日水曜日

ナナカマド

南天のような赤い実をつけるが
背の高くなる樹木である。
真っ赤に紅葉する。

東北や北海道でよく見られる樹木で、
街路樹として植えられていることも多い。

冬になっても実が落ちず、
白い雪の中に目立つ赤い色彩は
非常に華やかである。

この小さな果実は非常に渋く、毒がある。
しかし、霜が降りると成分が変わり、
食べられるようになる。

これは恐らく、霜が過ぎ去ってから鳥に実を
食わせ、種を運んでもらおうという目論見だろう。
寒さが過ぎるまで枝に温存しておくのだ。

名前の由来は七回竈で焼いても
灰にならないという説が有名だが、
実際にはよく燃える。

実はこれ、七回ではなく七日であるという説がある。

家庭の竈ではなく、薪炭を作るための炭焼き竈において、
七日間蒸し焼きにすることで上質な炭が得られるという。

だが、燃えにくいという俗説は古くからあり、
火除けのお守りとされることもあった。

また、真冬でも赤い実が残ることは魔術において
重視され、様々なまじないに関わっている。

これはヨーロッパでも同様であり、
スカンジナビアやブリテンにおいて、
魔除けの木として親しまれていた。

面白いのが、ヨーロッパのナナカマドは火除けではなく、
水難除けの呪物として用いられていることである。

同じ性質であっても、異なる伝承に
彩られているところが大変興味深い。

なお、ナナカマドの実はジャムに
加工されることがあるのだが、
特有の苦みを持つ。

ジャムと言っても肉料理に合わせるなどし、
いわゆる大人の味を演出するために使われるのだ。

2018年6月19日火曜日

ピッチ湖

トリニダード島に存在する
天然アスファルトの湖である。

ピッチとは粘度の高い黒い樹脂のことで、
硬いが液体のように流れる性質を持つ。
なお、アスファルトは石油樹脂である。

アスファルトの池というのは世界各地に存在し、
タールピットと呼ばれている。
ピットは穴や窪みのことだ。

このトリニダード島のものは
湖と呼ばれるほど大きい。

具体的にはヴァチカンと同じぐらいの広さがある。

もっとも、表面はほとんど乾いて固まっており、
アスファルトで舗装されたような状態である。
そこに穴を開けると瀝青が湧き出すというわけだ。

この場所から採取される瀝青は質が良いと評判で、
天然アスファルトの産出量世界一である。

トリニダード島は石油と天然ガスも産出し、
資源の豊富な島として知られている。

ところで、タールピットはいわゆる底なし沼である。
底が無いなどということは現実にはありえないが、
抜け出すことのできない沼という意味の慣用表現だ。

粘度が高いために、しっかりとした
手掛かりがなければ自力で
抜け出すことはできないだろう。

時間が掛かれば自重で徐々に沈んでいく。
まさに絶体絶命である。

実際に、マンモスなどの古代の生物が
タールピットに飲み込まれており、
よく化石が発見される。

人間の被害については話を聞かないが、
底なし沼の伝説の元のひとつに違いない。

なお、このトリニダードのピッチ湖は、
聖なるハチドリを食べたことで
神の怒りに触れた一族の村が
地面から噴き出した汚物に飲まれてできたという。

実際に村のある場所に瀝青が湧き出したのか、
それともこの不思議な地形を説明するために
創造された物語なのかは分からない。

いずれにせよ、不思議な場所である。

2018年6月18日月曜日

瀝青

天然のアスファルトである。
天然でないものは石油から精製される。

別物のように言ったが、
元々石油に含まれている成分で、
たまたま分離したものである。

粘ついた重い液体であり、色は黒い。

非常に古い時代から利用されており、
古代においては接着剤として重宝された。

石器時代、石の鏃を瀝青を使って
接着していた例もあり、
意外と身近であったことがうかがえる。

バベルの塔の建設にも用いられたとされ、
恐らくは石材の隙間を埋める目的
だったのではないかと思われる。

だが、もしも舗装に使われていたのなら、
バベルの塔は非常に現代的な姿を
していたのかもしれない。

舗装といえば、アスファルトは
本邦においては車道のイメージが強い。

一度は疑問に思ったことがないだろうか、
コンクリートとアスファルトの違いについて。

乱暴に言ってしまえば、
コンクリートは石であり、
アスファルトは樹脂である。

そもそもの成り立ちがまったく違うものなのだが、
現代の都市部の風景として一体化している。

コンクリートは強度が高いため、
壊れてはいけないものに使われる。
摩耗しやすい環境には向かない。

対してアスファルトは壊れやすいものに使われる。
車が走り続ける道路は日々削れていくため、
定期的に舗装するのだ。

これをいちいちコンクリートでやっていたのでは、
時間が掛かりすぎることになる。

そういえば、夏の暑い日、アスファルトが溶けそうな
気温と表現されるが、あれは実際に溶けている。

もちろん、表面だけだが、
いかに日光の力が偉大かわかるだろう。

2018年6月17日日曜日

サッサフラス

北アメリカに自生する樹木である。
本邦では馴染みがない。

根から絞った油は香料として用いられ、
柑橘系の香りを持つ。

だが、毒性があるため、アメリカでは
食品への使用が禁止されている。

葉には毒性を持つ成分が含まれておらず、
乾燥させ粉末にしたものを水に溶くと、
片栗粉を溶かしたようにとろみがつく。

この粉末はフィレパウダーと呼ばれており、
代表的なアメリカ料理、
ガンボの材料として用いられる。

ガンボとは、フランス式のブイヤベースに、
このフィレパウダーを溶いたスープだ。
東海岸の伝統料理である。

セロリ、ピーマン、玉葱、そして甲殻類か肉を
用いて非常に濃いスープを作り、
それをインディカ米と共に食べるのだが、
とろみが無ければガンボとは言えない。

甲殻類はカニ、エビ、ザリガニが、
肉は鶏、アヒル、ウズラ、もしくは
豚の燻製肉が用いられる。

ただし、地域によって構成が異なり、
トマトや牡蠣、ゆで卵、七面鳥などが入る場合もある。

もっとも、とろみのついたブイヤベースに
合わない食材というのも珍しい。
好きなものを入れて良いと思う。

ところで、サッサフラスの葉から作る
フィレパウダーを使うのがガンボだと書いたが、
それは最初期の話だ。

むしろガンボという名が定着する前の話だろう。
ガンボとはアフリカ原産のオクラのことだからである。

ガンボを作る際には、フィレパウダーを使う場合と、
オクラを使う場合があるのだ。

黒人奴隷と共に持ち込まれたオクラは、
フィレパウダーよりも手軽に
とろみをつけることができた。

したがって、夏は新鮮なオクラを、
冬は保存の効くフィレパウダーを使うようになり、
結果的にガンボに季節感をもたらした。

だが、アメリカ以外ではサッサフラスが珍しいため、
他の国で作られる場合は、概ねオクラが
用いられているとみて良いだろう。

2018年6月16日土曜日

ヤグラタケ

キノコの上にはえるキノコである。

建物の屋根の上に更に構造物が設けられた
櫓に由来した名前だ。

生物学者たちの付けた名前は詩的であり、
星を載せたものという意味合いを持つ。

寄生されたキノコが黒ずみ、
そこから白いヤグラタケがはえることから
星空を連想したのだろうと言われている。

このヤグラタケがはえる主なキノコは、
ベニタケの仲間で、毒はない。

そのせいか、ヤグラタケにも毒はないが、
小さく、たいした香りが無く、食感が悪く、
味も良くないため食べられることはない。

毒のあるキノコに生えることもあるが、
その場合のヤグラタケに毒が
あるかどうかは寡聞にして知らない。

いずれにせよ食べることはないので、
あまり関係ないのだが。

なお、意外と珍しい存在ではなく、
世界中に分布している。
本邦でも夏と秋に見ることができる。

写真映えするので、森や山に行った際には
探してみると良いだろう。

2018年6月15日金曜日

プラスチック

本邦でプラスチックを知らない者はいないだろう。
日常生活の中に溢れかえっているからだ。

だが、我々が漠然とプラスチックと呼ぶ物と、
正確なプラスチックの定義には差異がある。

プラスチックについて、私は密かに
苛立たしいと思っていることがある。
それは外来語でしか言い表せないことだ。

あの物質を外来語を使わずに示すならば、
可塑性合成樹脂だろうか。
却って長くなってしまっている。

可塑性とは粘土のように、
変形させると形が変わり、
元に戻らない性質のことを言う。

だが、我々がプラスチックと聞いて
思い浮かべるものは固く、
曲がったりへこんだりするよりも
折れたり砕けたりする。

可塑性を発揮するのは
製造工程での熱を加えた時なのだ。

また、同じ樹脂でも弾性を持つものはゴムと呼ばれる。
こちらは変形させても元に戻る性質を持つ。

もうひとつ気に食わないことがある。
プラスチックは英語由来の呼び名だが、
英語話者にプラスチックと言っても通じないことがある。

樹脂を意味するレジンの方が一般的で、
プラスティックとは可塑性を意味する。

つまり、我々が普段プラスチックと呼んでいるもののうち、
例えばプラケースなどに使われているような固いものは、
彼らのイメージとしてはプラスチックではないのだ。

彼らがプラスチックと呼ぶ柔らかい部類のものは、
本邦では大抵ビニールと呼ばれている。

ビニール袋を英語圏ではプラスチックバッグと呼ぶが、
実はビニールの認識もずれている。

プラスチックのうち、ビニル基と呼ばれる
特定の化学式を持つものがビニールである。

ビニール袋のほとんどはポリエステルや
ポリエチレンなので、ビニールではない。
また、ビニール傘も実はビニールではない。

何故か包装フィルムのようなタイプは
きちんとプラスチックと認識されていることが多く、
ビニールとは呼ばれない。

専門家ではないので詳しくはわからないが、
こういった認識が定着していった
なにがしかの歴史があるのだろう。

なお、プラスチックは主に石油から精製される。

だが、最も歴史のあるプラスチック、
セルロイドは植物繊維から作られていた。

このように、プラスチックの世界は複雑で、
一般的な知識だけではその深潭を覗くこともままならない。

大体、化学に明るくなければ石油から作られる
という点からしてイメージしにくいのである。

当たり前のように身の回りに存在する物質だが、
プラスチックとは何なのか、
一度考え直してみるのも面白いのではないだろうか。

2018年6月14日木曜日

サムライアリ

本邦に生息する蟻である。

一見ただの蟻なのだが、
非常に珍しい生態を持っている。

蟻の女王は結婚飛行の後、巣を作り、
働き蟻たちを産むのが普通だ。

だが、サムライアリの女王は
クロヤマアリの巣へと侵入し、
女王の部屋を目指す。

何のためかというと、
クロヤマアリの女王を殺すためである。

たった一匹で、クロヤマアリの妨害を
受けながらそれをやってのける。

そして、女王は殺したクロヤマアリの女王から
特有の匂いを奪う。

すると、クロヤマアリの働き蟻たちは、
彼女を自分たちの女王と誤認し、
サムライアリのために働くようになるのだ。

女王はクロヤマアリに世話をされながら卵を産み、
サムライアリが続々と生まれていくのだが、
彼女たちは通常の労働をしない。

別のクロヤマアリの巣へと攻め込み、蛹や幼虫を誘拐する。

それがサムライアリの仕事である。
普通の働き蟻らしい仕事はすべてクロヤマアリが担当する。

最初に巣を乗っ取った際にいたクロヤマアリは
やがて寿命で死ぬが、新たにさらってきた
クロヤマアリが成長し、働き蟻として補充される。

つまり外見の近い異種族を奴隷とし、
恒常的に補充していく。
そんなファンタジーのような光景が
繰り広げられているのである。

なお、面白いことに、サムライアリの顎は
敵の蟻を噛み殺すことに特化しているため、
食事を行うことができない。
クロヤマアリから口移しで食べさせてもらうのだ。

サムライアリは本邦であればさほど珍しくない。
その辺を歩いてる蟻が実はサムライアリの
奴隷であったりするかもしれないのだ。

2018年6月13日水曜日

トゲアリトゲナシトゲトゲ

一時期有名になったので
知っているかもしれないが、
順を追って説明しよう。

葉虫(ハムシ)と呼ばれる昆虫の種類がある。
コガネムシを小さくしたような虫で、
植物の葉を食べることからこの名が付いた。

そのハムシの中に、背に棘を沢山持つ種類がいる。
これはトゲハムシという名が与えられているのだが、
古くはトゲトゲと呼ばれていた。

例えばクロトゲハムシであれば、
昔はクロトゲトゲという名前だったのである。

さて、このトゲハムシの仲間に
棘の無い天邪鬼な奴らがいる。
彼らはトゲナシトゲハムシと呼ばれている。

もう分かったと思うが、
トゲナシトゲハムシの仲間に
再び棘のあるものが登場するのだ。

それがトゲアリトゲナシトゲハムシである。

カタカナの羅列に目がちかちかしてきたので
一度漢字で書いてみよう。

棘葉虫の仲間に棘無し棘葉虫がおり、
棘無し棘葉虫の仲間に棘有り棘無し棘葉虫がいるのだ。

カタカナ表記と漢字表記、
どちらがましだと思うかは人によるだろう。

とにかく、トゲハムシを昔はトゲトゲと呼んでいたので、
トゲアリトゲナシトゲハムシは
トゲアリトゲナシトゲトゲとなるわけだ。

ここまで書いておいて申し訳ないのだが、
正式にトゲアリトゲナシトゲハムシと
名付けられた虫はいない。

どうやらベニモンホソヒラタハムシという名の
棘のあるトゲナシトゲハムシのことを
好事家たちが愛称としてそう呼んでいたらしい。

ただ、棘のあるトゲナシトゲハムシが実在するということは、
それはトゲアリトゲナシトゲトゲ以外の何者でもないはずだ。

私のような虫好きでもない者が見掛けても
虫がいるとしか思わないだろう。

昆虫愛好家でも多くの場合トゲハムシとしか思わないだろう。
だが、一部のマニアはその虫を見てこう言うのだ。

トゲアリトゲナシトゲトゲがいるぞ、と。

2018年6月12日火曜日

グンタイアリ

グンタイアリとは巣を作らずに
群れで移動を続ける蟻のことだ。

色は赤黒く、熱帯雨林を行軍する様は、
赤い川が流れているかのようで、
その奔流を止めることはできない。

進軍中に遭遇した動物はことごとく解体され、
食料とされるのだが、どれだけもがこうとも
彼女たちの前では無力である。

逃げることのできない状況であれば、
牛などの大型動物ですら餌食とされてしまう。

その顎は鋭く大きく発達しており、
皮膚や肉を容易く食い千切る。

そんな彼らだが、実は年がら年中
移動を続けているわけではない。

幼虫が育ち切り、次の卵を産む時期になると、
倒木や岩の下に集まり隠れている。

また、日中最も暑い時間帯は
行軍を停止すると言われている。

これは、情報伝達手段である匂い物質が
暑さで蒸発してしまうかららしい。

グンタイアリには隊列を維持する監督蟻、
狩った獲物を群れの中に行きわたらせる分配蟻、
獲物を実際に狩る兵隊蟻、
雑用を行う働き蟻が存在する。

女王蟻は輿のように担がれ、
自ら歩くことはない。

この中でも特に興味深いのが働き蟻で、
大きな溝や段差に遭遇すると、
互いに絡み合って橋を架ける。

蟻の橋を蟻が渡るのである。

また、グンタイアリは川を渡ることもできる。
なんと、働き蟻が組み合い、筏となるのだ。

そこまでして直進する必要もないと思うのだが
彼らの歩みを止めることはできない。

このように向かうところ敵なしのグンタイアリだが、
蟻を食べるある種のメクラヘビにだけはかなわない。

その蛇が体から分泌する液は、
グンタイアリの感覚器官を撹乱し、
その存在を感じ取れなくさせる。

グンタイアリは目が見えず、
振動と匂いで周囲を認識しているため、
彼女たちにとってこの蛇は透明な化け物なのだ。

なお、グンタイアリの仲間にサスライアリという種類がいる。
アフリカやアジアにも生息しており、
実は本邦でも西表島にヒメサスライアリが存在する。

本場のアメリカ大陸のグンタイアリと比べると
そこまで恐ろしい存在ではないが、
不用意に近付くのはやめておこう。

2018年6月11日月曜日

偕老同穴

かいろうどうけつ と読む。

夫婦が共に老い、同じ墓に葬られることを指す
詩経に由来する故事成語である。

突然何を言い出すのかと思ったかもしれないが、
この名を付けられた動物がいるのだ。

種類は海綿である。
スポンジのような生き物の種類だが、
偕老同穴は繊維がガラスでできている。

そう、体内でガラスを生成し、
自身の骨格とするのである。

このガラスの骨格は檻のような円柱となっており、
中心部は胃腔として空間が存在する。

この空間には雌雄のエビが住み着いているのだ。

エビはまだ小さな幼生のうちに偕老同穴の
内部に入り込み、中で雌雄に別れて成長、
体が網目より大きくなり、外に出られなくなる。

つまり、このドウケツエビは、
死ぬまで夫婦二匹だけで
ガラスの家に住み続けるのである。

これが冒頭の「共に老い、穴を同じくする」
に繋がるわけである。

結婚式の祝い品として贈られることもあるのだが、
確かにこれ以上の縁起物もそうそうないだろう。

偕老同穴は死後波に流されて海岸に打ち上げられる。
この間に肉は洗われ、ガラス骨格だけが残される。

海岸にきらめく繊細なガラス細工を見つけたならば、
どこから流れ着いた宝物だろうと
胸がときめくに違いない。

2018年6月10日日曜日

ハキリアリ

アマゾン周辺の熱帯雨林に生息する蟻である。

赤褐色の体を持つ蟻で、
役割に応じて体の大きさが異なる。

ハキリアリは他の蟻と一線を画す
驚異の能力を持っている。

キノコを栽培して食べるのだ。

昆虫が農業をするのである。
まったく驚くべきことである。

ハキリアリは植物の葉を切り取ると、
列を成して巣へと運び込む。

切り取る際には、自身の足を軸とし、
顎をカッターとしてコンパスのように
円形に切断する。

運ばれる葉の上には小型の警戒蟻が
乗っていることがある。

彼女たちの役割は上空から襲い来る
寄生蠅の見張りである。
蟻の体に卵を産み付ける恐ろしい蠅が存在するのだ。

列の脇には大型の兵隊蟻が闊歩している。
彼らは無防備な行進を外敵から守る役割を持つ。

また、働き蟻にも三段階の体の大きさの違うものがいる。
大型の者は大きな葉を切断し、
中型の者は葉を解体、運搬し、
小型の者は細かな作業を行う。

大型の働きアリは行列の先頭に陣取り
邪魔な障害物を排除するという役割も持つ。

巣の中にも、栽培を主とする蟻、
発生した廃棄物を巣の外に捨ててくる蟻、
女王の世話する蟻と多様だ。

蟻に寄生する恐るべき菌が存在するのだが、
冒された蟻は行動がおかしくなる。

そうした蟻は、他の蟻に運ばれ巣の外へと追放される。
驚くべきことに、追放作業を行った蟻もまた、
巣の中に戻ることは無い。

これは、病原菌の感染を防ぐために、
自らを隔離するという自己犠牲である。

キノコを育てるだけでも奇想天外だというのに、
他にも様々な興味深い点を持つ。
本当に面白い昆虫だ。

高度に分業化の進んだ社会というか、
ロボットめいたシステムにすら見えてくる。

なお、彼女たちが葉を刈る行為は、
新たな日向を作り出し、
森の新陳代謝に一役買っている。

ハキリアリのシステムは、
より大きなシステムの一部でしかないのだ。

2018年6月9日土曜日

サルノコシカケ

胡孫眼とも呼ばれる木の幹から生える
半円盤状のキノコである。

種類によって形や色が異なり、
概ね茶色から黒にかけての色合いだ。

綺麗な半月状のものもあれば、
縁が波打ったものもあり、
何枚も重なって生じる場合もある。

多くは硬く、柔らかいものは少ない。
硬さは木材のようなものもあれば、
皮革のようにしなやかなものもあり、
更には布のような手触りのものまで存在する。

布のようなタイプは琴や刀の収納袋に
加工されていた例もあり、
ヨーロッパでも綿代わりに用いたという。

また、特に硬い種類では、
剃刀を研磨する革砥としたとも伝えられている。

霊芝と呼ばれる種類は、古くより薬の材料とされ、
免疫力を高めたり、血圧を整えたり、
癌を予防すると言われてきた。

しかし、そうした効能は未だ実証されておらず、
長期間服用した場合の副作用も報告されている。

栄養豊富なお茶としても売られているが、
少々眉唾なところがあることは否めない。

臨床試験により効能が認められている国もあるが、
果たして、本当にうたわれているような
効果があるのだろうか。

なお、サルノコシカケ茶は木の味がする。

2018年6月8日金曜日

ケブカガニ

全身毛むくじゃらの蟹である。

藻に覆われた石のように見える。
おそらく、そうすることで
天敵から身を隠しているのだろう。

あまりの もふもふ ぶりに
アメリカ人はテディベアと呼んでいるらしい。

だが、水中でこそ ふさふさ した雰囲気だが、
空気中では濡れた毛が でろり と垂れ下がり、
一気に気持ち悪い印象に変わる。

温暖な海域に広く分布しており、
本邦でも太平洋側の島々近海に生息する。

種類は意外と多く、大して毛深くないものもいる。
中には毛のないスベスベケブカガニ
というものまでいる始末である。

毛が生えているから毛深蟹という
名であるにも関わらず、
毛が無くて すべすべ しているから
スベスベケブカガニとはどういう了見であろうか。

それはもはや普通の蟹なのではないだろうか。

なお、ケブカガニの多くは毒を持つため、
残念ながら食べられない。

毒がないとされる種類でも、
食べるという話は聞いたことがないため、
美味くはないのだろう。

蟹の類が持つ毒は、フグで有名な
テトロドトキシンなどえぐいものが多い。

蟹が食べている貝に由来するもので、
貝毒といえば少量で死に至るものばかりである。

本邦人は蟹や貝と聞くと、
すぐ美味そうだと思ってしまうが、
危険なので知らない海の生き物は
口にしないよう注意されたし。

2018年6月7日木曜日

フジツボ

磯の岩肌にびっしりと生えているあれだ。

意外と知らない人が多いが、フジツボは甲殻類である。
エビやカニと同じ甲殻類である。

食べることも可能で、やはりカニのような味がする。

ただし、採取も処理も手間がかかるため、
コストが高く、量の割に値段が高い。

ああ見えて子供の頃は泳ぐことができ、
辿り着いた硬いものに取り付いて成長を始める。

あの富士山のような物体の中には
触手の生えたエビのような体が潜んでいるのだ。
なお、食べているのはプランクトンである。

色々な意味で気持ち悪いと
評判のフジツボだが味は良く、
カニより美味いと言う者もいる。
青森ではホタテのついでに養殖されているそうだ。

そんな高級食材扱いされているフジツボだが、
人間の活動にとって非常に害のある存在だ。

特に深刻なのが船舶である。
船底にフジツボが付着すると、
水の抵抗が増し、速度が低下する。

他にも、大量のフジツボによって重量が増したり、
エンジン冷却のために海水を取り入れる
配管内に繁殖することで水の通りを悪くしたりする。

フジツボが付きにくくするための防汚塗装は
帆船時代から工夫されており、
銅やなどの毒性のある金属が利用されてきたが、
環境を汚染する恐れがあってままならない。

なお、アメリカ海軍では毎年のフジツボに
起因する予算だけで新たな大型艦艇が
建造できるとも言われている。

もしフジツボ被害を根絶できるなら、
莫大な財産を築けるだろう。

悪影響を受けるのは船だけではない。
海水で冷却を行う必要のある発電所や
工場においても多大な被害が生じている。

小さなフジツボでも、
集まれば軍艦や建造物の脅威となるのだ。

2018年6月6日水曜日

モリブデン

水鉛土とも呼ばれる金属である。

耳慣れないかもしれないが、人体にも含まれており、
血を作る際や、体内の銅を排出する際に必要とされる。

金属の性質としては、硬く、高温にも耐えられ、
熱伝導性が高く、温度の変化による膨張率が低い。

つまり、耐熱性と強度が求められる環境に強く、
高温炉や溶融電極などに使うことができるのだ。

タングステンのように工具鋼にも用いられるが、
こちらは半分ほどの重さのため、
軽さが求められる場合により重要である。

また、銅との合金は電導性が高いため、
基板回路にも用いられるが、
高価なため量産には向かない。

モリブデンの名は鉛を意味するギリシア語に由来しており、
モリブデナイトは輝水鉛鉱のことである。

鉛鉱石に似ていたためこの名が付いたのだが、
ここからモリブデンが分離できるようになったのは、
石炭による高温が実現してからだ。

圧延、切削、研磨が難しく、融点が高く鋳造も難しい。
精錬にも技術を要し、一度に沢山生産することはできない。
つまり、かなり加工しにくい素材なのである。

更には希少性の高いレアメタルであり、
需要に対する供給が追い付いていないという点も無視できない。

もし、モリブデンの大鉱脈が発見されたならば、
その国はかなり潤うことになるだろう。

2018年6月5日火曜日

タングステン

重い石という意味の名を持つ鉄のような金属である。

非常に硬いため、工具などに利用される。
だが、最大の特徴は融点の高さにある。

高温に晒されても変化が起きにくいため、
兵器の素材として重宝されているのだ。

単体で利用されるよりも、合金とした方が
耐蝕性などの面で使い勝手が良く、
炭化タングステンは超硬合金などと呼ばれている。

超硬合金、凄い名前だ。
他にもドリルに使われる高速度鋼というものもある。

戦車の装甲にもタングステンが使われており、
徹甲弾の弾芯もタングステンか
劣化ウランが最高級である。

超硬合金、高速度鋼、ドリル、戦車、徹甲弾。
字面だけで男の子がワクワクするような金属、
それがタングステンなのだ。

ちなみに電球のフィラメントや
アクセサリーという用途もある。

指輪はまだまだ知名度が低いものの、
メンテナンスが不要という点で人気がある。

注意すべきは、指が腫れるなどして
抜けなくなった場合、リングカッターでは
切断できないことだ。

ハンマーで叩き続けることで割ることが可能なので
もしタングステンリングが抜けなくなったら
まずは落ち着いて石鹸などを試してから、
コツコツ叩こう。

なお、自然界には酸化鉱物として
存在していることが多いのだが、
鉄重鉱という凄い名前の鉱石がある。

また、タングステンの別名ヴォルフラムは、
「狼のように貪る者」に由来している。

狼云々はの精錬を邪魔することを指しているが、
それにしてもカッコいい名前に縁のある金属である。

2018年6月4日月曜日

除虫菊

正式な名前はシロバナムシヨケギクという。
種に成長する部分、胚珠に殺虫成分を持つ。

白いマーガレットのような花で、
蚊取り線香のパッケージにも描かれていたため
なんとなく知っている向きも多いだろう。

バルカン半島を席捲していた頃のセルビアにおいて、
この花の束の枯れたものの傍に多数の虫の死骸が
落ちていたことからその効能が発覚したという。

この花は明治期に本邦へと伝来し、
上山英一郎によって蚊取線香が発明された。

当初は棒状の線香だった金鳥香だが、
渦巻型に改良されたことで、
長時間の燃焼が可能となったのである。

本邦では古来より蚊遣(かやり)と呼ばれる
煙を焚いてを追いやる文化があった。

蚊取線香誕生の背景には
この蚊遣からの着想があったのだろう。

本邦ではマラリアが駆逐されて久しいが、
世界各地には未だ蚊が媒介する病によって
死に至る人々が少なくない。

そうした地域では蚊取線香が
多くの命を救っているのかもしれない。
偉大な発明である。

2018年6月3日日曜日

ゴールデンロッド

セイタカアワダチソウのことである。

空き地に大量に繁茂している雑草で、
黄色く細かい花が塊になって咲く。

背丈が高く、条件によっては
平屋の民家の屋根をも越える。

北アメリカ原産の植物だが、
鑑賞用に持ち込まれて以来、
爆発的に繁殖した。

根から他の植物を弱らせる毒を分泌し、
特にススキなどの、
在来種を駆逐して数を増やした。

しかし、土壌の栄養分を増やす
モグラミミズの減少によって、
近年は勢いを失っている。

また、競合する植物が減ったことで、
自身の毒の影響を受けるようになってしまった。

一時期は空き地という空き地に驚くほど
生えていたセイタカアワダチソウだが、
今は目にすることが少なくなっているのは、
このような理由によるものだ。

なお、ミツバチが好んで蜜を集める
植物のひとつであり、
北米では蜜源植物として重宝されている。

ちなみに、ゴールデンロッド蜂蜜は本邦では
独特の香りがあるとして好まれない。

花粉症の原因という噂が広まったこともあるが、
蜂が花粉を媒介する植物であり、
風媒花ではないため花粉症とは関係がない。
風評被害である。

このように悪いイメージのある
セイタカアワダチソウだが、
実は薬草として利用することができる。

北米先住民は喉や歯の痛みを和らげるため、
この草の茎を噛んだという。
消毒、抗炎症作用を持つのだろう。

アトピーや喘息にも効くのではないかと
研究されており、もしかすると今後
画期的な薬が生み出されるかもしれない。

2018年6月2日土曜日

テングサ

天草とは海藻の一種である。

石花菜やオゴノリとも呼ばれ、
万葉時代にはテグサの名で記録されている。

海藻には緑藻、褐藻、紅藻があるが、
天草は赤く、紅藻に分類されるものである。

緑藻は浅い海で生育し、日光がよく届くため
陸上の植物同様に緑色をしている。

対して紅藻は深いところで育つ。
このため、効率良く日光からエネルギーを
得るために赤色をしている。
褐藻はその中間である。

さて、天草といえば寒天である。
寒天のてんは心太、つまり、
ところてん の てん である。

ところてんの材料である寒天は、
寒空の下で乾燥させていたことから、
ダブルミーニングで名付けられたという。

ところてんは、こころぶと が訛ったものらしい。
心太と書いて ところてん と読むのは何故か、
不思議に思ったことがあるだろう。
元々は大陸の言葉であったようだ。

さて、動物性のゼリー状物質ゼラチンと異なり、
寒天は温度の変化に強い。

一度溶かして固めると、かなり高い温度に
ならなければ再度溶けることがない。

このため、口に入れた際に体温で溶けることなく、
独特な食感を維持することが可能だ。

ところてん のあの見事な食感は
ゼラチンでは生み出すことができないのだ。

暑い夏の日には黒蜜でつつっと
ところてん をいただきたいものである。

関東のスーパーで売っている ところてんは
酢水に浸けられているのが残念でならない。

自作するしかないのだが、
以前持っていた天突きは
いつのまにか無くなってしまった。

ところで、冷やして食べるイメージしかない
ところてんだが、暖かいスープに入れるという
変わり種も考案されているようだ。

煮ると溶けてしまう ところてん だが、
口に入れられる温度であれば、
あの食感を維持することができるのだ。

2018年6月1日金曜日

百日草

ジニアや浦島草、長久草とも呼ばれる
菊の仲間の植物である。

メキシコ原産で、アステカ人が栽培していた。

原種は赤紫色の花を咲かせるが、
品種改良により様々な色のものがある。

本邦へは江戸期に伝来しており、
仏壇に供える花として人気が出た。

春に種を播くと夏に花が咲き、
秋まで色あせずに咲き続ける。

この長い花の寿命が百日草の名の由来であるが、
ジニアは発見者の名にちなむ。

ヨーロッパやアメリカでも
花期の長さに着目しており、
長く咲くことのめでたさから、
魔除けとして扱う地域もある。

ブラジルではカーニバルの期間に
各所を飾り立てる役割を持っており、
幸福を招く花として知られている。

花言葉は例によって関連性のないものが
いくつもあるのだが、
「友情」だけは確定しているようだ。

長く続く友情を願う気持ちを
この花に託したらしい。