序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2018年2月28日水曜日

レモンバーム

レモンバームは生物学者たちがメリッサと呼ぶ薬草である。

ギリシア神話において赤子のゼウスに乳代わりに蜂蜜を与えて
育てたニンフの名前がメリッサだが、学者たちがこの名を
付けた背景にどのような機微があったのかは不明だ。

古くから心臓の病に効くとされてきたが、
これは葉の形が心臓に似ているからという類感呪術によるもので、
つまるところは迷信である。

実際の効能としては気管支炎や熱、頭痛を和らげるという。
つまり、炎症を抑える作用を持つことが推測されるが、
これもまた民間療法の域を出ない。

なのでこの小さな白い花を咲かせる植物は
薬草ではなく香草として扱うのが正しいだろう。

その名の通りレモンに似た香りが特徴的なため、
香料として愛好する者は多いと聞く。

荒地でも旺盛に繁殖するのだが、
コナジラミが付くため栽培が特段楽というわけではない。

越冬するが、年を経る毎に香りが飛んでいくため、
香料として使用するのなら毎年植えるのが良いだろう。

ハーブティーやドレッシング、入浴剤や芳香剤に使われ、
需要があるのだが、精製できる油分は多くない。
このため、通常はレモンオイルと混合されたものが用いられる。
本末転倒である。

混ぜ物なしの純粋なレモンバームオイルは高価であり、
小匙より少ない量でおよそ十日分の食費に相当すると言われている。

2018年2月27日火曜日

ヒース

ヒースは利尿作用と殺菌効果を持つ薬草である。
従って、泌尿器の炎症に有効だ。

リウマチや痛風、腎機能の改善も期待できる。
肌に塗ればメラニンの生成を阻害するため、
美白効果もあると言われている。

ヒースとは単一の植物ではなく、
カルーナとエリカを指す。

また、本邦ではヒースとして知られているが、
ヘザーの誤訳によって定着した呼び名だという。

カルーナとエリカの関係はややこしく、
地域によっては同じ植物とされるところもある。
このため、この二つを指してヒースと呼ぶのである。

ノルウェー国の象徴花はギョリュウモドキというカルーナである。
しかし、この花はエリカとも呼ばれる。
つまりはそういうことである。

花の色は白から深紅にかけて様々であり、
ブドウの房のように連なって咲く。

なお、一部地域ではこの花を貧困の象徴と蔑み、
農村部を揶揄する言葉として使われていたというが、
現在ではそうした風潮は無くなったと思われる。

2018年2月26日月曜日

猟虎島

クリル諸島にはラッコの島があるという。

かつて日本領であったが現在はロシアが実効支配している地域、
ウルップ島の東北東にチルポイ島という島がある。

チルポイ島は二つに分かれた島であり、
その間の水道が猟虎水道と呼ばれている。

そこにあるのが件の猟虎島である。
ロシアではモールスカヤ・ヴイドラー島として知られる。
ラッコの島という意味である。

島とは言うが野球場ほどの大きさの岩地だ。

かの地が猟虎島と呼ばれるようになったのは、
そこがラッコたちの楽園であるからではない。

古くから現地人によるラッコ猟が行われていた場所であるため、
この名が付けられたのだ。

なお、ラッコという呼び名はアイヌ語であるという。

ラッコの毛皮は恐ろしいほど撥水性と断熱性に優れており、
これを求める北の民は多かったことだろう。

現在ではラッコは国際条約によって
保護されている場合がほとんどであるため、
この毛皮を手に入れることは難しい。

アワビやウニを食害するため、
漁師からは害獣と見做されているが、
上記条約によって駆除できないのが現実らしい。

2018年2月25日日曜日

カンガルー島

カンガルーと呼ばれる動物に特別な思い入れは無いが、
カンガルー島と名付けられた場所には興味が湧く。

聞くところによると、その島はオーストラリア大陸の南岸にあり、
アデレード州の管轄であるという。

洞窟や砂漠、一枚岩の巨石が存在するなど、
変化に富んだ場所のようだ。

マヨルカ島より大きく、バリ島より小さいと思われるこの島には、
名前の通り多くのカンガルーが生息している。
また、アシカもそこら中にいるという。

住民は農業と観光業に力を入れており、
特に養蜂に関しては世界最古のミツバチ保護区
であることを誇りにしているという。

奇妙な形の岩が立ち並ぶ奇岩島と呼ばれることもあるようだが、
実際には開発が進み、農地の広がる住みよい場所である。

オーストラリアに旅行する際には立ち寄ってみると良いだろう。

2018年2月24日土曜日

ポリプテルス

この魚はナポレオン・ボナパルトのエジプト遠征を機に
世に知られるようになったものである。

ヨーロッパ人によってポリプテルスと名付けられたのだが、
エラの多いものという意味である。

現地ではビキールやエンドリケリーと呼ばれている。
ビキールもエンドリケリーもポリプテルス族だが、
別の魚である。

名前の通りエラが特徴的なのだが、
まるで陸上動物の四肢のように発達したそれで、
水底を這うという。

また、背にも多数のエラがあり、体色が緑であることも
相まってトカゲのようにも見える。

シーラカンス同様の化石魚として紹介されることもあり、
その体に残る進化の過程は、
なんと恐竜よりも古いものが見受けられるという。

この魚は肺を持っている。
厳密には浮袋なのだが、これを肺のように利用することで、
陸上でも酸欠にならずに行動することが可能だ。

世界中で人気の観賞魚であり、専門店も存在すると聞く。
恐らく養殖されているのであろう。
しかし、食用には向かないと思われる。

2018年2月23日金曜日

木綿

誰でも知っているようなことだが、
ワタという植物の種子の周りにできる木綿と呼ばれる繊維がある。

最古の綿花栽培はインダス文明まで遡り、
かの地では長い年月の間主要な産物となってきた。

毛によく似たこの繊維は中世以前の
ヨーロッパ人にとっては奇異な存在だったという。

サラセン商人の手を経て木綿を手に入れたヨーロッパ人は、
これを羊毛の一種であると考えた。

しかし、サラセン商人は植物の繊維だと言い張った。

植物にこのような毛が生えるわけがないと考えたヨーロッパ人たちは、
「羊のなる木」という空想上の存在を生み出した。

バロメッツと名付けられたその生き物は、基本的には植物である。
しかし、幹の上には羊によく似た動物が実っている。

その動物が空腹を覚えると植物は萎れ、動物の口が地に届く。
すると動物は周囲の草を食み元気を取り戻す。
幹は再び直立し、動物は樹上へと戻る仕組みだ。

インド人はそのバロメッツの毛を刈り、
サラセン商人に売りつけていると
ヨーロッパ人は考えたのだ。
奇想である。

現実の綿花は大量のを必要とする作物である。

木綿は優れた繊維であるため、
いつの時代にも様々な地域で需要が生じた。
このため、各地で栽培が開始されるのだが、水の問題が生じる。

本来であれば水資源の豊富な地域でしか栽培できないはずの植物を
灌漑によって量産してきたツケを払わなければならないのだ。

食料となる作物の減産、水不足、相場の変動など、
栽培地域を数々の困難が襲う。
これは現代でも変わらぬ状況だ。

化学繊維が発達した今でも、木綿の需要は高い。
人類に不可欠な植物なのである。

2018年2月22日木曜日

サポヂラ

中央アメリカにはサポヂラの木と呼ばれる樹木があるという。
その樹液は甘い。

サポヂラの木より採れる樹脂をチクルと呼び、
マヤ人はこれを煮詰めたものを噛んで嗜好品としていた。

ヨーロッパ人のアメリカ到達以降、
このチクルは広く知られるところとなり、
ガムと呼ばれる菓子の原料とされてきた。

甘く、長時間楽しめるこの菓子は、
腹の足しにはならないが様々な地域で愛好されている。

しかし、自然原料の安定供給には限度があるため、
現在のガムは合成樹脂である酢酸ビニルを原料とするものが主流である。

サポヂラには手のひらに収まる程度の大きさの果実が成るという。
その風味はキャラメルや綿菓子を思わせる甘いものだと伝え聞く。
見た目は馬鈴薯にも似る。

現地ではこのサポヂラの実もまた、嗜好品として流通しているが、
世界的に見れば珍品の類であろう。

私は幼少の頃、チクルは安物の菓子に含まれる有害な甘味料であり、
子供の歯を溶かすと脅されたことがある。
しかし、恐らくそれは大人たちの生み出したデマであったに違いない。

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、
聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。

なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、
嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、
読者諸兄はこの点に留意していただきたい。

物事を伝聞や憶測で書き綴ることは本来好ましいことではない。
情報媒体の発達した現代、虚実入り混じるインターネット上に、
新たな惑わしを生むことに若干の抵抗はある。

しかし、先達たる大プリニウスがその博物誌において
嘘八百を並べ立てている以上はそれに敬意を表し、
積極的に模倣していく所存である。

自らの知識を補強せんと望むのであれば、
どうか記事の内容を鵜呑みにせず、
事実であるかどうかの確認を努々忘れぬように。