レモンバームは生物学者たちがメリッサと呼ぶ薬草である。
ギリシア神話において赤子のゼウスに乳代わりに蜂蜜を与えて
育てたニンフの名前がメリッサだが、学者たちがこの名を
付けた背景にどのような機微があったのかは不明だ。
古くから心臓の病に効くとされてきたが、
これは葉の形が心臓に似ているからという類感呪術によるもので、
つまるところは迷信である。
実際の効能としては気管支炎や熱、頭痛を和らげるという。
つまり、炎症を抑える作用を持つことが推測されるが、
これもまた民間療法の域を出ない。
なのでこの小さな白い花を咲かせる植物は
薬草ではなく香草として扱うのが正しいだろう。
その名の通りレモンに似た香りが特徴的なため、
香料として愛好する者は多いと聞く。
荒地でも旺盛に繁殖するのだが、
コナジラミが付くため栽培が特段楽というわけではない。
越冬するが、年を経る毎に香りが飛んでいくため、
香料として使用するのなら毎年植えるのが良いだろう。
ハーブティーやドレッシング、入浴剤や芳香剤に使われ、
需要があるのだが、精製できる油分は多くない。
このため、通常はレモンオイルと混合されたものが用いられる。
本末転倒である。
混ぜ物なしの純粋なレモンバームオイルは高価であり、
小匙より少ない量でおよそ十日分の食費に相当すると言われている。