序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2020年7月25日土曜日

ベルベット

絹で作られた肌触りの良いカットパイルの織物である。
絹に似せて作られたレーヨンで織られたものもこう呼ぶ。

パイル織とは、布というものはそもそも
経糸と緯糸だけで事足りるのだが、
そこに毛羽立たせるための経糸を加えたものである。

こうした作り方からパイル織のことは添毛織とも呼ぶ。
糸を追加で足しているため、添毛というわけだ。

添毛された経糸をそのままにした場合、
ループパイルと呼ばれるのだが、
これはいわゆるタオル生地である。

タオルの表面の毛羽立ちは
輪っかになった糸であることは
一目見ればわかることだろう。

この輪っかを意図的に切ったものをカットパイルと呼ぶ。
これを絹もしくはレーヨンで作り、
毛足があまり長くないものがベルベットなのである。

ちなみに毛足が長いものはベルベッティーンと呼ばれ、
普通は綿で作られる。
本邦では別珍とも呼ばれる。

さて、本題のベルベットだが、これは英語での呼び名である。
生み出されたのはルネサンス前夜のイタリアで、
ラテン系言語ではビロードと呼ぶ。

十字軍の活動によってサラセン科学がヨーロッパ人に
知られるようになり、様々な文物がもたらされた。
その結果ルネサンスが花開くのだが、
ビロードはその前段階で生み出されたものである。

そもそも絹は東方よりもたらされるものであったのだが、
絹をより美しく織る方法を模索する過程で
生み出されたのがビロードだったのだ。

フランス語ではベロアと呼ばれ、
本邦では天鵞絨、てんがじゅうの名前で広まった。

ポルトガル人によって持ち込まれた天鵞絨は、
当初染色されていない白い絹織物だった。

これを本邦では白鳥のようだとして、
天鵞、つまり白鳥の名を付けたようだ。

紛らわしいことに現代の本邦においては、
ベルベットもビロードもベロアも名前として使われている。

同じものが様々な名前で呼ばれるため、
多くの分野で混乱をもたらしていることは否めない。

更に、天鵞絨の天の字をとって、
毛羽立った織物の名にくっつける例がある。
代表的なものはコール天だろう。

コール天はコーデュロイのことなのだが、
コーデュロイについてはまた別の機会を設ける。

前述の別珍、ベルベッティーンとベルベットの違いも
曖昧な場合が多く、織物の名前というのは
なんとなくがまかり通る無法地帯と化している側面もある。

一応、分野によってはこれらの名前の違いを
細かな差異を示すために使い分けているようだが、
業界の専門用語である。

今回取り上げたベルベットは、
絹あるいはレーヨンでできた毛足の短い
毛羽立った織物であり、ビロードやベロア、
天鵞絨とも呼ばれると覚えておけばよいかもしれない。

絹製であり、手間のかかる製法で作られる関係上、
ベルベットは高級織物である。

絹のような滑らかさを指してベルベットを
形容詞として使う場合もあることも補足しておこう。

2020年7月20日月曜日

バラムツ

アブラソコムツと並び、食べてはいけない
美味な魚として知られている。

あまりに有名なので、
残念ながら知られていない情報を
提供することはできない。

実食した者の感想を読んだ方が面白いだろう。
なので、さわり程度に紹介しておこう。

バラムツはムツと呼ばれているが
食用魚のムツとは別の魚である。
面構えが似ているのでこう呼ばれている。

バラは薔薇のことであり、
鱗のトゲがイバラのごとく鋭いことから
この名が付けられたという。

バラムツは深海魚である。
一般的に魚には浮き袋と呼ばれる
浮力を維持する器官がある。

しかし、深海の水圧の中では
この浮き袋は機能しないどころか
圧死の危険をもたらす。

このため、多くの深海魚は
水より比重の軽い油を肉の内に蓄え、
浮力を得る助けとしている。

つまり、深海魚のうち、
この性質を持つものは肉が脂っこいのだ。

バラムツはこの油が通常の魚とは異なる。
ワックス、つまり蝋に類する油を
全身に蓄えている。

食べた者の話によると、
バラムツはこの油が美味いらしい。

皆が口を揃えてマグロの大トロの
一段階上の存在だと言う。
それでいて臭みが無いそうだ。

だが、食べていいのは刺身ふたきれまで
と言われている。
なお、全長は成人男性の背丈を超える。

食べるとどうなるかは
面白おかしく書いてある読み物が
沢山あるので調べてみるといいだろう。

ちなみに、販売は違法であるが、
食べる分には自己責任だ。

大陸や半島ではこの白身魚を
他の魚と偽り流通させる事例が多いという。

台湾ではこの魚の性質を理解した上で、
油魚等の呼び名で売られているという。

いずれにせよ、知らずに食べれば
大惨事が待っている。
量によっては命に関わる。

一度ぐらいは味わってみたいものだが、
流通していないので、食べるには
漁師の協力が必要になるかもしれない。

2020年7月6日月曜日

イノブタ

イノシシとブタの雑種である。

ただし、そもそもイノシシとブタは
同じ動物である。

ずいぶん違う印象を受けるが、
ゴールデンレトリバーとチワワが同じ動物で
あることを考えると納得できるだろう。

実際のところ、ブタを野に放つと
剛毛が生えて牙が伸びる。

牙に関しては家畜のブタも
本来持っているものであるが、
安全のために切られている。

野生化したブタが世代を重ねると
先祖帰りして完全にイノシシとなる。
このようにイノシシとブタは同じ動物なのだ。

ということで、イノブタという名前は
動物の種類の名前というよりも
ブタの品種の名前と言った方がいいだろう。

ただし、あくまで雑種である。
イノシシの種類やブタの品種によって、
その形質は変わってくる。

もっぱら食肉にする際の
肉質の違いで語られることになるのだが、
掛け合わされた品種によって違いがある。

このため一概に言えるものではないのだが、
一般的な豚肉に比べて
脂っこさが少なくコクが強くなる。

野生のイノシシを狩猟するよりも、
イノブタを繁殖させた方が手軽なため、
猪肉料理に代用品として使われる。

家畜としてのイノブタは
このようなものだ。

問題は家畜ではないイノブタだ。
逃げ出したブタと野生のイノシシの交雑により
野生のイノブタというものが存在する。

見た目はほぼイノシシである。
力強く、やや獰猛。
イノシシの性質そのままだ。

しかし、家畜のブタ同様に
著しく警戒心が弱い。

野生のイノシシはその警戒心から
人里に出てくることは少なく、
たまに出てくるとちょっとした事件になる。

だが、野生のイノブタは臆すること無く
人里へとやってくる。

農作物を食害し、場合によっては
人に怪我を負わせることもある。

やっていることはイノシシと同じだが、
人を恐れないという厄介な性質を持つのだ。

問題はそれだけではない。
本邦の法律上、野生のイノブタは
野生のイノシシとして扱われる。

何が問題かというと
無許可では罠にかけるなどの
狩猟を行うことが認められていない。

一部の地域では害獣として
多くの被害が出ており、
対策が求められている。