序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2018年4月30日月曜日

キガシラペンギン

顔の黄色いマイナーなペンギンである。

キンメペンギンやグランドペンギンとも呼ばれる。
少し目つきが悪い。

目の縁は赤く、くちばしも赤い。
目は黄色で、目の周りから後頭部にかけて、
半周するように黄ばんだ白い帯がある。

顔及び頭頂部は黄と白と黒の羽毛が
混ざり合って生えており、
黄ばんだ黒といった色合いになっている。

体長はペンギンの中では大きい方で、
首から下はイメージ通りのペンギンである。

生息地はニュージーランド最南部から、
南極海にかけての島々であり、
それほど多くはない。

絶滅が危惧されているペンギンで、
主な減少理由は人間の持ち込んだ
外来動物による捕食である。
謎の病気が蔓延したことも痛かった。

数が少ないせいもあるかもしれないが、
他のペンギンと比べ同族との距離感が遠く、
満員電車のようなコロニーを形成しない。
パーソナルスペースを大切にしているようだ。

体が比較的大きいにも関わらず、
小さな魚ばかりを好んで食べる。
近海でのみ漁をすることと
関係しているかもしれない。

遠洋へ出かけない理由は定かではないが、
彼らは海岸から離れないことで
アシカを天敵とする羽目になっている。

アシカは彼らの日々の生活リズムを覚え、
待ち伏せして襲い掛かるのだ。
海ではサメやオニカマスにも襲われる。

サメは仕方がないにしても、
カマスに食われるというのは
ペンギンとして不甲斐ないのではないだろうか。

一応擁護しておくと、オニカマスの体長は
人間の成人男性ほどもある。

私の個人的な好きなペンギンランキングでは
残念ながらキガシラペンギンは
コガタペンギンの下である。

黄ばんだ感じと目つきの悪さが気になるのだ。
キガシラペンギン好きには申し訳ないが。

2018年4月29日日曜日

コガタペンギン

オーストラリア南部からニュージーランドにかけて
見ることのできる小型のペンギンである。

コビトペンギンやブルーペンギン、コロラ、
フェアリーペンギンとも呼ばれる。

ペンギンの中では最も通常の鳥に近く、
直立できずに前傾姿勢をとる。

また、動きも他のペンギンと比べせわしなく、
ニワトリのように落ち着きがない。

特徴的な模様や差し色は無く、
背中側はやや青みがかった灰色である。
足はピンク色で、裏と爪の先が黒である。
くちばしも黒い。

海岸近くの草むらに穴を掘って巣を作るが、
シドニー近辺では民家の縁の下に住む場合もある。

人間の住む地域に生息しているにも関わらず
個体数は安定しており、
うまいこと共生できていることが見て取れて嬉しい。

ただし、他のペンギンと比べ人間への警戒心は強く、
泥だらけになりながら穴や物陰にじっと隠れる。

光が苦手で、日の出前に海へと出かけて行き
日没後に巣へと帰って来る。
そして夜中はやかましくしているのだ。

鳥目でありながら夜行性のため、
鳴き声によるコミュニケーションが発達している。
ペンギンにしてはうるさい理由である。

海に潜る能力はあまり高くなく、
海中の浅いところにいる
イワシやオキアミを主食としている。

神経質で攻撃的な面があり、
仲間同士の喧嘩は日常茶飯事である。

喧嘩の様子は、まず鋭い鳴き声を上げて
威嚇をすることから始まり、
体当たりの後にくちばしチャンバラを繰り返す。
大抵は恋のさや当てのようだ。

ところで私は飛べない鳥が大好きである。
ニワトリや七面鳥など飛べない鳥は概して美味いが、
食用でという意味ではない。
純粋に愛らしいと思うのだ。

中でもペンギンは最上級のものであり、
他とは比べ物にならない。

ペンギンの中で好みの順位をつけるならば、
コガタペンギンは下位の方になってしまうが、
それでも愛らしいことに変わりはない。

2018年4月28日土曜日

オオウミガラス

絶滅したオリジナルのペンギンである。

どういうことかというと、
ペンギンという名は本来この鳥の名である。

我々の知るペンギンはこの鳥に似ていたことから
南極ペンギンと呼ばれるようになったのだ。
生物種としては完全に別の生き物である。

人間の幼児ほどの体長を持つ白黒の水鳥で、
飛ぶことはできない。

カラーリングはペンギンと聞いて思い描くものだが、
目の上からくちばしにかけて楕円状に白い。

足は黒く、我々の知るペンギンと異なり、
関節部も露出している。
飛ぶことはできないが翼もフリッパーではなく、
まさに水鳥の格好である。

生息地は北極海方面であった。
カナダ東部のニューファンンドランド島に
特に多かったようである。

我々の知るペンギン同様に好奇心旺盛で
危機感の薄いこの鳥は、人間を恐れることなく
むしろ積極的に寄ってきたという。

このため捕獲が容易であり、
「石を拾うよりも簡単」と言われていた。

肉と卵を食用にし、脂肪を燃料とするため乱獲されたのだが、
人間の航海技術の発達によってそれが加速、
各地で回復不能なほど個体数が減少していった。

最後に残されていた繁殖地は海底火山の噴火によって海に沈み、
本邦における幕末の頃に絶滅した。

悲しい話だが、この鳥の絶滅を目の当たりにしたからこそ、
人々は南極ペンギンに同じ運命を
辿らせずに済んだのかもしれない。

2018年4月27日金曜日

舞茸

世界中で愛される非常に美味なキノコである。

見た目が舞い踊る人々のように見えることから、
この名が付いたが、発見した喜びや、
山の神への感謝で舞い踊るためという説もある。

ヨーロッパでは羊の頭などと呼ばれており、
舞とは関係ない名で呼ばれている。

なお、ある古文書には食べたことで心が高揚し、
舞い踊ってしまったキノコというものが出てくる。
このキノコのことを舞茸と記載しているが、
恐らく幻覚作用のある別のキノコのことだろう。

非常に有益なキノコなのだが、
他の菌と比べ弱いため、
自然に生えるものは多くない。

また、栽培も初期には雑菌にやられてしまい、
難しいとされていたが、
現在では量産が可能となっている。

今のご時世、天然の舞茸は入手が難しく、
幻のキノコなどと呼ばれることもある。

栽培ブランドの影響で北国の特産品のように思えるが、
実際には比較的暖かい地方を好むキノコである。
本邦では南関東でよく採取されていた。

さて、この舞茸、とにかく美味い。
歯触りが良く、香りが芳醇で、味わい深い。
個人的にはベストキノコである。

タンパク質を分解する酵素を持つため、
共に調理した肉を柔らかくするという性質も持つ。
生食をすると腹を下してしまう。

難点としては汁物に入れた場合
つゆが黒く変色してしまうことにあるが、
家庭で調理する分にはなんの問題もないだろう。

なお、天然ものと栽培品では香りと食感に違いがある。
明らかに天然ものの方が美味いのだが、
栽培品でも十分過ぎるほど美味である。

栽培と言っても、原木栽培と菌床栽培があり、
量産は菌床によって行われる。
原木の場合はコストが高いが天然ものに近いものができる。

適した調理法は数え挙げればきりがない。
私の最近のお気に入りは白菜、豚肉と共に蒸し、
ポン酢でいただくというものである。

洋食にも合うのでとりあえず何にでも入れてみよう。
ただし、卵が固まらないので、
茶碗蒸しに入れる際には茹でたものを使うように。

2018年4月26日木曜日

蓼食う虫も好き好きという諺で知られる植物である。

この諺から受ける印象では、
食用とするには向かない植物だが
これを食べる虫もいるというニュアンスに聞こえる。

しかし、実際には人間も食べる。

ピリっとした強い辛みがあるため
薬味として用いられるのだが、
独特の匂いがある。

なんと表現したものか、
腋の臭いをとてもマイルドにしたもの、
と言ってしまうと悪印象が強いか。

種類によっても違うようなので、
一概には言えないが、
単体ではさほど良い匂いというわけでもない。

ベトナムではこのタデも含め複数の香草を
混ぜ合わせた薬味がよく使われるが、
ブレンドした時が真価を発揮するのかもしれない。

紅蓼と呼ばれる種類は香りがあまり強くないため、
刺身のツマとしてよく使われる。
赤紫色のカイワレのような小さな草を見たことがないだろうか。

また、鮎の塩焼きにタデ酢と呼ばれる緑色のソースが
添えられることがある。
川魚特有の臭みを消すことができるのだが、
タデの匂いが嫌だという者もいそうだ。

さて、冒頭の虫の話だが、
実はタデ特有の匂いは除虫効果がある。

昔の人はその様子を観察し、
虫が嫌う草だと認識していたのだろう。
にもかかわらずタデを食う虫がいるというのが、
蓼食う虫も好き好きという諺のポイントだろう。

タデは漢方にも使われており、水蓼(すいりょう)と称す。
効能は脚気、リウマチ、下痢、打撲となっている。

民間療法の域を出ないが、熱中症に効くとされてきた。
虫刺されにも効果があるという。

なお、種類によっては青色染料としても使われる。

2018年4月25日水曜日

ネッシー

キリンのように長い首を持つ
巨大な水棲のトカゲである。

スコットランドのネス湖周辺にのみ
生息していることからこの名が付いた。

アルバ王国時代を最後に目撃が途絶えていたことから
絶滅したと考えられていたが、
大戦期の頃から再び見られるようになった。

体長は驚くほど大きく、個体差はあるが
バスやトラックを凌ぐほどにまで成長する。

周辺に暮らすシカなどを主食としており、
子供の頃は魚を食べる。

ネス湖に魚が少ないのは、
ネッシーの子供が食い荒らすためだ。

水中に潜っていられる時間は、
肺呼吸をする動物としては異常に長く、
鯨ですら足下に及ばない。

手足は鯨のようにヒレ状になっており、
水中での生活に適応しているのだが、
陸上を這って進むことも可能だ。

成体はその体の大きさゆえに
カレドニア運河を通れないため、
地上を移動することでネス湖とネス川を行き来する。

海上でネッシーに出くわしたという報告は無いため、
淡水にのみ適応していると考えられる。

時折海岸に打ち上げられる死骸があるが、
汽水域を越えて海へ出てしまった個体の成れの果てだろう。

ネス川の河口に位置するインヴァネス市では
ネッシーを観光資源として大切にしており、
誤って海に出ないよう見回りも行われている。

実際にネッシーを見ようと観光に訪れる者の数は多く、
彼らの多くはインヴァネスに宿泊する。
ネッシーが経済に与えている影響は大きいと言えるだろう。

なお、古い記録によると、肉の味は牛に似ていたという。
絶滅危惧種であり、狩猟が禁止されているため
味わうことができないのが残念である。

2018年4月24日火曜日

バジェットガエル

マルメタピオカガエルとも呼ばれる
目の飛び出たカエルである。

アメリカ人は河馬カエルや
パックマンとも呼んでいるらしい。

大きさは手の平に乗る程度で、
タピオカのような質感の緑がかった灰色の体に、
がま口のような黄色く縁どられた口を持つ。

ピギャーと鳴く。

何よりも特徴的なのは漫画に登場するカエル
さながらの目である。

水やの中から目だけを出して
獲物を待ち伏せるために飛び出しているのだが、
この目のせいでなんとも愛嬌がある顔つきになっている。

実はオタマジャクシの頃から目は上についており、
扁平な体をしている。

威嚇の際には体を膨らませることもできるのだが、
破裂しそうな危うさを感じさせる。

また、カエルにしては珍しく牙を持っている。

普通のカエルも歯が無いわけではないのだが、
多くは上顎のみ目立たない程度に存在する。

それがこのカエルの場合、
下顎に二本、それとわかる牙が生えているのだ。

獲物に食らいついて離さない意気込みの表れだろう。
鼠まで食べるだけのことはある。

パラグアイ川流域の低地帯に生息しており、
ほぼ水の中から出ないため乾燥に弱い。
乾季には泥を体の周りにまとわりつかせて眠りにつく。

本邦では愛玩動物として大人気であり、
価格も比較的高い。

だが、飼育は容易ではないので
水族館や動物園で鑑賞するのがお勧めである。

2018年4月23日月曜日

石綿

繊維状の鉱物である。
とても細い石の糸が綿状に絡み合い、
ふかふかとした柔らかさを実現している。

その細さは筆舌に尽くしがたく、
髪の毛など比べ物にならない。

近頃は石綿と呼ぶよりもアスベストと言った方が
人口に膾炙しているだろう。

ギリシア語で「消化できない」という意味なのだが、
恐らく食い意地の張った者がこれを食らい、
消化できずにそのまま出てきてしまったのだろう。

耐久性、耐熱性、耐蝕性、絶縁性に優れ、
軽くて安価なため奇跡の鉱物として重宝されていた。
かつては。

しかし、その細かさのために極小の粉塵と化し、
吸い込めば肺に蓄積されてしまうという
問題が発覚してからは敬遠されるようになった。

おそらく石綿の話題を聞く場合というのも、
アスベスト被害の報道が主だろう。

だが、そうした問題点が発覚するまでは、
人々は様々な用途にこの石綿を使っていた。

特に建物での需要が高く、防音のため、
断熱のため、配線を覆う絶縁体として、
大いに活用されていた。

古代においてはエジプトのミイラを包む布、
ローマのランプの芯などに活用されていたことが有名だ。

また、チャイナでも布として扱われ、
汚れた場合、火にくべると汚れだけ燃えてなくなるという点から、
火で洗う布、火浣布と呼ばれていた。

ヨーロッパでは火蜥蜴の皮と呼ばれ、
鉱物だと知らない者はその神秘性に慄いた。

本邦の古典、竹取物語において、
かぐや姫が求めた無理難題のひとつ、
決して燃えることのない火鼠の皮衣というものも、
もしかしたら石綿がイメージの源泉なのかもしれない。

2018年4月22日日曜日

ヒシ

池の水面を緑の絨毯とせしむる水草である。
菱型とはこの植物の葉の形に由来する。

浮草ではなく、水底から芽を伸ばし、
スポンジ状の浮きによって葉を水面に出す。

花は小さく慎ましやかな白いものが咲き、
後には特徴的な実を残す。

その黒い実は親指二本分ほどの大きさで、
カイゼル髭を思わせるような角のある
特徴的な形状をしている。

忍者の まきびし は、この菱の実の中でも
角の多いオニビシという種類のものを使う。

草履ならば確かに刺さりそうだが、
大した効果は得られそうにない。

一瞬怯ませればそれで良いのだろうが、
費用対効果は割りに合うのだろうか。

特徴的な実は食用にもなり、
茹でて食べると栗のような味がする。
殻を剥き、割った様子は栗の実と似ている。

本邦では以前はよく食されていたが、
生活様式の変化に伴い珍しいものとなった。

現在でも台湾ではおやつとしてよく食べられており、
台湾旅行中の定番となっているようだ。

なお、解熱、消化促進、滋養強壮といった薬効を持つが、
民間療法として利用されるに留まっている。

2018年4月21日土曜日

海星

ヒトデとは五芒星のような形をした海の生き物である。
体の色は様々であるが赤系統のものが比較的多い。
ウニやナマコの仲間であり、貝の類とは異なる。

大きさは様々だが概ね手の平に乗る程度と
思っていても間違いではないだろう。
というのもヒトデと言う名は人の手に由来するからである。

欧米の言語では星の魚や海の星と呼ばれることが多く、
星型をしていることが強調されており、
五芒の星型マークはヒトデに由来しているという説もある。

通常は五本の突起を持ち、これを腕と呼ぶが、
その数は種類によって異なる。
非常に多いものも存在する。

腕の多いものほど獰猛で食欲旺盛な傾向があり、
食事の風景はまさにコズミックホラー。

体の海底側には細かな足が連なっており、
ぞわぞわと動かして移動する。
泳ぐことはできない。

大抵は貝を襲って時間を掛けて殻をこじ開けて食べるが、
肉であれば何でも食べてしまうようだ。

胃袋を外に出すこともでき、
貝の身を包んで消化してしまう。

また、恐ろしいことに腕が千切れた場合、
その部分が再生する。
本体側だけでなく腕の方もだ。
つまり増殖する。

ちなみに食べることは推奨されない。
体内に鉛などの重金属を溜め込む性質があるためだ。

だが、一部の地域では煮て体内の卵を食すとも聞く。
味は苦味の強いウニのようだという。

海盤車の名で漢方に用いられる例もあるようだ。
その場合は体内に集められた金属が
効能をもたらすのかもしれない。

謳われている効能の多くは滋養強壮だが、
微毒を持つため長期間の服用は避けるべしと
書かれている辺りは、やはり重金属のためだろう。

なお、除虫剤の材料として用いられる例もある。

2018年4月20日金曜日

アメフクラガエル

ずんぐりむっくりした体型のかなり丸いカエルである。

大きさは親指に乗せられる程度だが、
危険を感じるとただでさえ丸い体を
更に膨らませ威嚇する。

まるで大福である。

一時期は「きなこまぶしわらびもちがえる」という
偽の和名が流布されたが、納得のいく命名である。

威嚇と言っても我々人間からすると
より愛らしくなっているようにしか見えない。

対人間という観点では可愛さのあまり
危害を加えることを躊躇する
という効果はあるかもしれない。

穴を掘り、普段は土の中で暮らす。
夜間に雨が降ると水を求めて
這い出して来る。

食事と水を得る時以外は極力動こうとしない
省エネルギーな生き物なのだ。
寿命は十年ほどと長いのもそのお陰だろう。

繁殖に関してはあまりよく判っていないようだが、
土の中に卵を産み卵の中でオタマジャクシ時代を過ごす。

アフリカ南部に生息しており、
土中のシロアリを食べて生きている。
キュッキュッと小さく鳴くらしい。

本邦では飼育動物として人気が高いが、
基本的に土中にいるため、
土を飼っているようだと言われるそうだ。

2018年4月19日木曜日

小麦

大麦より少し遅れて栽培されるようになった小麦だが、
製粉の手間がかかるという難点があった。

製粉技術が発達したことで、
容易にパンや麺が作られるようになり、
その評価は大麦を上回ることになる。

何より小麦で作られた食料は
香り、味、舌触りが非常に優れているのである。

しかし、軽く流したが製粉というのは
歴史上無視できぬ要素である。

水車によって巨大な石臼を回す例が多いのだが、
そのために水路を引く必要がある。
を巡る争いには飲用水以外にも、
こうした要因があったのだ。

また、粉に挽くと隙間がなくなる分嵩が減る。
よって、粉挽職人は小麦泥棒と誹られた。

風車や水車といった施設が使えない場合、
手挽きの石臼を使うことになるが、
これも重要な財産である。

挽き臼の無い貧農家庭は他人に頼らざるを得ない。
そこにひと悶着起きるのは想像に難くないだろう。

さて、本邦では製粉技術の発展が遅れたと言われている。
よって、徳川の太平の世になるまでは、
小麦粉は贅沢品として扱われていた。

卵、砂糖、小麦粉、牛乳。
今でこそ当たり前の食材だが、
どれも高級品だったのである。

2018年4月18日水曜日

大麦

大麦は穀物の王として栽培が始まった。

大麦と小麦の大小は粒の大きさではなく、
優劣を意味する文字である。

古代においては小麦よりも大麦の方が優れていたのだ。

大麦はパンや麺への加工には向かないが、
殻を取り潰せば、あとは火を通すだけで食べられる。
粉を挽くなどの労力が不要なのだ。

更に、大麦を少し発芽させた麦芽というものが存在する。
麦芽からは麦芽糖を生成することが可能だ。

麦芽糖である。糖なのである。甘いのだ。

古代人にとって他に甘いものとは果実と蜂蜜である。
人間は甘いものを食べると幸せを感じる生き物らしい。
つまりは、大麦は幸せをもたらす存在なのだ。

大麦には他にも重要な加工品が存在する。
ビールである。

諸説あるが、エジプトで粥として食べられていた大麦が、
発酵してしまいビールが生まれたという。
当時のビールは粥状だったわけだ。

一方、ローマ人はワインをこよなく愛したので、
大麦に関しては食べ物としても飲み物として二流品と扱った。
だが、ゲルマン人には今も昔も人気がある。

ウイスキーが発明されると、
大麦はその原料としても需要が生じたが、
食用としてはあまり人気が無くなっていった。
また、麦芽糖も砂糖の登場で影が薄くなった。

本邦では大麦はコメの裏作として生産され、
米が不足した際に混ぜて麦飯として食べていた。
裏作というのは作物の収穫後、
次の種まきまでの間に他の作物を育てることである。

昨今の麦飯はかなり美味いものだが、
昔は殻を完全には除去できず、独特の臭みがあった。
また、本邦人は白米を信奉しているため、
麦飯は蔑まれるような食べ物であった。

刑務所で臭い飯を食うという言葉があるが、
この臭い飯とは麦飯の事である。
この言い回しだけでも
麦飯がどう思われていたのかがわかるだろう。

ただし、麦茶や麦味噌など、愛されてきた部分もある。
また、現在では世界に誇れるウイスキーを作っており、
ビールも愛飲されている。

つまるところ、本邦においては飲み物に加工された時が、
大麦の真価を発揮する場面なのかもしれない。

ところで、イタリアにオルゾーラテという飲み物がある。
私は大好きである。

2018年4月17日火曜日

ライ麦

畑に生える雑草であったが、
長い年月を経て穀物となった植物である。

穀物となった経緯は燕麦と似ているが、
燕麦ほど広範囲には受け入れられていない。

ライ麦は寒さに強く、悪条件の土壌でもよく育つ。
小麦を撒いたはずの畑一面に
ライ麦が茂るという事例も多かったという。

寒く痩せ細った土地で真価を発揮するとくれば、
そうした地域で重宝されるのは当然である。

しかし、小麦と比べると劣ったものという評価は覆せなかった。

ちなみに、燕麦ではパンを焼くことができないが、
ライ麦は乳酸菌を活用することでパンにできる。
黒パンである。

酸味があり、クセが強く、食味で小麦に劣る黒パンだが、
子供の頃から食べ慣れていれば気にはならないらしい。
小麦がどこにでも流通する現代であっても、
ドイツやロシアでは普通に食されている。

ところで、ライ麦には華やかな歴史がある。

ハンザ同盟の活躍により、ドイツ地域で作られたライ麦は
バルト海を通って盛んに輸出された。

安価な穀物という需要があったため、
大麦を押しのけ第二の穀物に成り上がったのだ。

ウイスキーなど蒸留酒の原料としても求められ、
現在でも需要は高い。

ただし、ライ麦には麦角病という大敵がいる。
他の麦にも麦角はできるのだが、ライ麦が一番多かった。
麦角病に感染した麦の穂には黒い爪のような突起が生じる。

毒麦とも呼ばれたその麦角を食べた者は
手足が黒ずんで千切れ、また、精神錯乱を起こす。
ペスト、コレラと共に猛威を振るった病である。
暗黒の中世のイメージである。

さて、話の時代を進めよう。
産業革命を迎えると、工場建設のため無茶な土地整理が横行する。

その結果、小作農が駆逐され、地方の農場は大規模化し、
小麦が計画的に作られるようになった。

品種改良により寒さに強くなったこともあって、
小麦の生産量は飛躍的に増加し、
食料としてのライ麦は利用が縮小していったのだ。

ところで本邦はライ麦と縁がない。
近頃は黒パンを気軽に買えるようになったが、
やはり慣れていないとそれほど美味いものではない。

2018年4月16日月曜日

カラス麦

畑に勝手に生える偽の麦である。

雑草であったカラス麦を栽培化したものは
燕麦と呼んで区別する。
また、オーツ麦とも呼ばれている。

小麦に混ざり雑草として生えてくるカラス麦は、
人が除去していくうちに、小麦に似たものばかりが、
生き残るようになっていった。

似すぎた結果、穀物として
利用できるまでになってしまったのである。

小麦も大麦もメソポタミアで栽培が始まったが、
燕麦はヨーロッパで栽培されるようになった穀物だ。

雑草が穀物に変わるまでの歳月が
どの程度のものだったのかは不明だが、
長く苦しい戦いがあったに違いない。

燕麦は暑さや乾燥に弱い。
小麦より寒さに強く、湿気に強いため、雪解け水で
ぬかるむようなヨーロッパ北部で盛んに栽培された。

ローマ帝国がヨーロッパを席捲すると、
流通に改革が起こり、冷涼地域に住む人々の口にも
小麦が届けられるようになった。

こうなると食味の劣る燕麦は飼料用穀物となり、
人が食べるものではなくなっていった。

とはいえ、大切な馬の食べ物である。
それなりの熱意を持って栽培されていたという。

また、小麦の流通事情の悪かった北欧では
ライ麦と共に食卓に上り続けた。

小麦のように粉に挽く必要は無く、
そのまま煮て食べることができたため、
石臼を持たない貧農にとっても主食であった。

貧乏というネガティブなイメージの付いた燕麦だが、
アメリカ合衆国でシリアルがもてはやされるようになると、
健康に良いという触れ込みで流行する。

近年では ふすま やブランなどと呼ばれパンにも使われている。

雑草からスタートし、敬遠され、
貧乏人の代名詞となっていた燕麦は、
今、健康食品として人気を博している。

なかなかに興味深い歴史を持つ穀物である。

2018年4月15日日曜日

アゾレス

ディエゴ・デ・シルベスというポルトガル人に発見された
北大西洋の真ん中にある諸島である。

砂糖商たちの待望した新たな西の島であったが、
残念ながらサトウキビ栽培には向いていなかった。

アメリカ大陸発見後は中継地点として重宝されたものの、
この火山諸島で栽培できる作物は少なく、
商人たちの思惑は脆く崩れ去った。

しかし、何も作れないわけではない。
ワイン用のブドウを作ることができる。

アゾレスワインと言えばピコ島のものが優れているが、
生産量が少ないため知名度はそれほど高くない。

琥珀色のこのワインはドライな味わいと芳醇な香りが素晴らしい。

火山岩の合間に細々と存在する土壌を丁寧に手作業で畑とし、
細やかな世話をしてようやく実る手間の掛かったブドウは、
世界遺産の名に相応しい名酒となるのだ。

2018年4月14日土曜日

マデイラ

ジブラルタル海峡の西方に存在する島である。

最初に発見したのはフェニキア人だとされており、
ローマ時代から存在自体は知られていたのだが、
ポルトガル人によってようやく利用されるようになった。

ちなみに、マデイラとカナリアス、ヴェルデ、アゾレス
ひとまとめにマカロネシアと呼ばれている。

マデイラ再発見の契機は、ポルトガル船の漂流であった。
再発見後すぐに入植が始まり、
サトウキビ栽培が行われた。

砂糖の流入がヨーロッパに資本主義経済の萌芽を
もたらしたことはカナリアスの項目でも述べたが、
砂糖の力は凄まじいものがある。

クリストバル・コロンが西からインドへ行くと
言い出した際に投資をしたのも砂糖商たちであったが、
彼らはコロンがインドに辿り着けるとは考えていなかった。

マデイラのような島を新たに発見してくれるかもしれないという
彼らなりの期待があったのである。

なお、マデイラはカナリアスと比べて冷涼なため、
実際にはサトウキビよりブドウの栽培の方が適しており、
ここで作られたワインはマディラワインとして有名だ。
このマディラワイン、一般的なワインとは異なる。

ワインはブドウの糖分をアルコール発酵させて作る
醸造酒なわけだが、マディラワインの場合、
ある程度発酵したところで蒸留酒を流し込み、
強制的に発酵を止めつつアルコール度数を確保する。

その結果、酒中には糖分が残り、甘いワインが出来上がる。
カラメルのような風味は癖になること請け合いである。
ポートワインも似た製法で作られるが、火入れの仕方が異なる。

マディラワインは主にアメリカの
イングランド植民地へ輸出されていた。

当時のイングランドでは自国の植民地にはロンドン発の
船以外の入港を禁じていたのだが、
チャールズ2世がポルトガルの王女と結婚したことを契機に、
マディラワインに特例を設けたのだった。

こうして北アメリカの人々に愛されることになった
マディラワインだが、アメリカが独立すると、
どこの国の船でも自由に出入りできるようになったため、
寡占状態が解消されて競争に敗れ去っていった。

砂糖やマディラワインとは違って世の中は甘くない。

2018年4月13日金曜日

カナリアス

アフリカ、モロッコの南西に位置する
イスパニア領の諸島である。

ラテン語で犬の島を意味する名前が付けられており、
由来にはいくつかの説があるのだが、
大プリニウスが言っていた野犬が多いため
という理由を紹介しておく。

カナリアと言うと鳥の金糸雀を
思い浮かべる向きが多いだろう。
あの鳥はこの島々から名付けられている。

ただし、カナリア諸島は原産地のひとつというだけで、
この島々の固有種というわけではない。

さて、このカナリアス。
中世までは世界の果て、西端だと思われていた。

幸福の島という別名があるのだが、
これは恐らく死後の世界という意味合いが
あったのだと思われる。

イスパニア人が征服した際の記録には
地獄の島と書かれているのだが、
ヨーロッパ人の最果てへの恐怖が窺い知れる。

その一方で、気候的には暮らしやすく、
人間は大昔から住んでいた。

北アフリカから渡ったベルベル人が住んでいたところに、
ノルマン人が乗り込んできたりと、
住民の入れ替わりが幾度もあったという。

イスパニアが海洋探検に乗り出すと、
彼らの制圧するところとなり、
重要な拠点となっていった。

補給港としても重要なのだが、
最大のポイントはサトウキビ栽培にある。

砂糖はヨーロッパに資本主義の発端をもたらすほどの商品で、
アメリカ大陸から大量の銀が運ばれてくるようになるまでは、
砂糖商が大きな顔をしていた。

コーヒーカカオ紅茶がヨーロッパに入るに従って、
需要はうなぎ登りとなり、人類の砂糖消費量は
現代に至るまで増加の一途を辿っている。

もっとも、アメリカ大陸のプランテーションで
栽培する方がサトウキビ量産は楽であるため、
カナリアスでの生産量は下火となった。

2018年4月12日木曜日

ニッケル

偽物の銅鉱石と考えられていた石から分離された
銀白色の金属である。

悪魔の銅などと呼ばれ忌み嫌われていたのは、
銅鉱山において、苦労して採掘したにも関わらず、
銅の精錬ができない厄介者だったためだ。

鉄に似た性質を持ち、クロムほどではないが腐食に強い。
このためめっきとして利用される。

また、銅ほどではないが電導性が良く、
銅よりも耐久性が高いため、ケーブルにも使われている。

銅とニッケルの合金である白銅は、
銀に似た輝きを持ち、硬貨の材料として用いられる。

白銅については、変わったところでは軽さを活かし、
航空機の機銃弾の薬莢という用途もある。

だが、ニッケル最大の用途は鋼やクロムとの合金である
ステンレス鋼だろう。

不銹鋼とも呼ばれる錆びない鋼、ステンレスの用途は
列挙するには多すぎるほど日常に浸透している。

ニッケルは他にも耐熱性の高い鉄との合金インバーや、
形状記憶合金として知られるチタンとの合金が活躍している。

まがい物扱いされていた時代と比べると、
随分と脚光が当たったものである。

2018年4月11日水曜日

クロム

近代に発見された銀白色の金属である。

その名の由来はギリシア語の「色」に由来する。
強い金属ではないが、様々な化合物となった際に、
驚くほど多彩な色合いを生じさせる。

顔料としての利用は幅広く、
山吹色に近い黄色を呈する黄鉛が代表的だ。

また、磁器の絵付けに使用した場合、
鮮やかな青色を生み出す。

磁器の青色というと鉄を利用していたのだが、
クロムは断然発色が良く、
しかも薄く塗っても十分な青が出るのだ。

このため、明治にはクロムを使った印判手が主流となり、
現在でも青い模様のお皿として一般的だ。

クロム顔料だけでも語ることはまだまだあるが、
金属としての用途に移ろう。

クロムの酸に対する強さは特筆に値するものである。
金をも溶かす王水にも耐えると言えば
その凄さがわかるだろう。

酸に触れたクロムは表面に酸化皮膜を生じる。
皮膜は不働態と呼ばれる変化しにくい性質を持ち、
内部の腐食を遮断する。

実は非常に薄い塩酸や硫酸には溶けてしまうのだが、
強い酸ほど強固な皮膜を作り出す。

こうした耐腐食性が様々な用途に有用だということは
容易に想像がつくだろう。

クロムは錆びやすい鉄製品などにめっきすることで
真価を発揮するのだ。

めっきだけではない。
鉄、ニッケル、クロムの合金は
ステンレス鋼と呼ばれほとんど錆を生じない。

今や日常生活の中でステンレス製品を
目にしないことはないだろう。

なお、クロムはなどと同様に産出地の偏った金属である。
どこでも手に入るというわけではない。
主に南アフリカ、インド、カザフで採掘される。

本邦でも輸入に頼っているため、
輸出元に異変があれば供給が絶たれることになる。

ステンレス鋼が製造できなくなれば、
様々な業界に大きな損害が生じることだろう。

2018年4月10日火曜日

アルミニウム

アルミニウムは近代に発見された金属である。

名前は明礬を意味するラテン語のアルメンに由来する。
本邦ではアルミと省略されることが多いのだが、
やはり本邦人は略語が好きなようだ。

化合物状態では自然界に広く分布し、
鉄に次いで地表に多い金属だと言われている。

それが近代まで知られていなかったというのだから、
世界は一筋縄ではいかない。

単体のアルミニウムは熱と電気の伝導性が高く、
加工がしやすく軽い。
白い酸化被膜を生じるため腐食にも強い。

こうした性質はあらゆる分野でのアルミニウム需要を生み、
戦略物資として重要視されてきた。

粉末状にすると可燃性が非常に高く、
粉塵爆発を引き起こすため危険極まりない。

燃焼の際はガスを生じないため熱が集積して高温となり、
強い白色光を発する。
昔はカメラ撮影のフラッシュに使われていた。

また、酸化鉄との混合粉はテルミットと呼ばれている。
テルミットをマグネシウムによって着火すると
激しい反応が起こり、鉄だけが溶融する。

テルミット反応と呼ばれるこの性質を利用することで、
容易に鉄の溶接が行えるようになったのだ。

アルミニウムは銅やマグネシウムと共に
合金にするとジュラルミンとなる。

軽さと加工のしやすさはそのままに強度が
飛躍的に向上するジュラルミンは
航空科学分野では欠かせない。

含有金属の割合を調整することで
様々な性質のジュラルミンが生み出されるため、
用途に応じていくつもの種類が存在する。

以上のようにアルミニウムは非常に有用な金属なのだが、
電気の缶詰と呼ばれることもあるほど、
精錬に多量の電力を要するという弱点を持つ。

大規模な水力発電所を持つ途上国で
精錬されている例が多いのは、
少しでもコストを下げるためなのだ。

最後に、自然界のアルミニウムについて少し触れたい。

精錬前のアルミニウムといえばボーキサイトだが、
実はサファイアやルビーといった宝石類もまた、
酸化アルミニウムが主成分である。

クロムが混入すれば赤いルビーとなり、
チタンが混入すれば青いサファイアとなる。

金属の世界もまた、不思議なことばかりである。

2018年4月9日月曜日

大豆

本邦において非常に身近な大豆は、
縄文の時代にはすでに利用されていたようだ。

植物でありながらタンパク質を得られる食品として、
肉嫌いや菜食主義者から絶大な支持を集めている。

大豆に限らずマメの仲間の多くは、
根粒菌と呼ばれる菌類と共生関係にある。

菌は植物が利用できない窒素をアンモニアへと合成し、
マメはアンモニアを有機酸へと変えて菌に渡す。

根粒菌が存在しているからこそ、
大豆には豊富な栄養が蓄えられているのだ。

しかし、実は大豆には毒がある。
動物の消化機能を阻害する力を持つ毒だ。
腹を下させることで、
豆を別の場所で発芽させるのが狙いだろう。

なお、この毒は加熱することで容易に分解する。
生食しなければ人体に影響はない。

さて、栄養豊富で収量も多い大豆だが、連作することができない。
連作とは収穫の終わった畑で前回と同じ作物を育てることを言う。

畑の土はそこで生育した植物によって性質が変わる。
土中の成分が変わると、適した作物も変わるわけだが、
同じものが育てられなくなることを連作障害と呼ぶ。

つまり、大豆を育てた後の畑では、
連作障害により大豆を育てられないのだ。

こうした事情があるため、大豆は優れた食品でありながら、
主食の地位を得ることはできなかった。

おそらくヨーロッパ人が興味を示さなかった理由も
この連作障害が大きかったのだろう。

ヨーロッパに大豆を伝えたのは本邦帰りの博物学者
エンゲルベルト・ケンペルだと言われている。
大豆はヨーロッパに醤油の原料として紹介され、
しょうゆが訛ってソイとなった。

しかし、ヨーロッパ人はソイビーンズを好まなかった。
他の作り慣れた豆の方が良かったのだろう。
近現代になってようやく、油を採る目的で大規模耕作が始まった。

現在は健康食品として注目を集めている大豆だが、
需要の中心はやはり油糧と飼料である。

本邦では醤油に味噌に豆腐に納豆その他諸々、
大人気なのだが、世界的にはマイナーな存在なのだ。

2018年4月8日日曜日

吼える40度線

西から東へ凄まじい風の吹く海域である。

アフリカ南端沖から東へ、オーストラリアの南方を通って
ニュージーランドを経由し、南米南端に至り再びアフリカ南方へと
循環する南半球の高緯度地帯のことだ。

風を遮る陸地が無いために、
地球の自転によって生まれる偏西風が好き放題吹き荒ぶ。

風が止むことは無く、風向きも一定のため、
帆船は東に直進し続けることが可能だ。

イングランドが植民地であるインドや
オーストラリアと連絡するために活用した。

ヨーロッパから大西洋を一気に南下後、
偏西風に乗ってインド洋まで出ると、
必要なら一度北上しインドへ、
再び南下して止まることなくオーストラリアへ向かう。

そこから地球を一周する形で太平洋を横断して南米に至り、
再び大西洋を縦断して本国へと帰還する。

補給できる機会が少ないものの、その条件下では、
必要な船員数が少なく船倉が大きく
帆の大きい船が有利となる。

これは小回りが利き人数を多く乗せる必要のある
海賊船には不利に働くことだ。

つまり、このルートを使うということは
海賊被害を抑えることにも繋がるわけだ。

難点は風が強すぎるため波が高く、
相応の大型船でなければ耐えられないことにある。

ちなみに更に南下すると「狂う50度線」
「絶叫する60度線」という海域が存在するが、
そちらは更に風が強く気温も大変低く流氷の危険まである。

2018年4月7日土曜日

昆布

北の海にたゆたう大型の海藻である。

本邦での食用の歴史は古く、えびすめと呼ばれ
万葉の時代から流通していた。

ほぼ食材として利用される昆布だが、
戦国時代には城の石垣を造る際に、
石材を滑らせる敷物としていたらしい。

大阪を中心に食文化が広がっているが、
江戸で比較的好まれなかった理由には
水質の違いがあるという。

実際の差がどれほどかはわからないが、
上方の水はより軟水で、江戸の水は硬度が高いという。

これにより、昆布の出汁の出方が違うため、
江戸では昆布より鰹節の方が好まれたというのだ。

しかし個人的にはやはり流通の事情が大きいと思う。
日本海を通り京大阪へ入るルート、いわゆる北前と、
太平洋岸を回るルートでは運びやすさが違う。

北前航路は古くから開発されていたためだ。

ところで普段あまり意識しないが、
昆布は外国では食べられることが少ない。

ロシアでも海のキャベツと呼ばれ食用にされるが
一部地域限定の流通となっている。

チャイナでも北東沿岸部では食べられていたが、
いわゆる中華料理ではあまり使われない。
ただし、養殖昆布の輸出量は世界一である。

変わりどころではニュージーランドの昆布がある。
マオリ人たちはこれを食用とし、
保存食作りにも利用していたという。

近年は欧米に出汁の概念が広まりつつあり、
昆布への興味が高まっている。

いずれはこれまで利用されていなかった地域の
昆布が世界的に流通するようになるかもしれない。

2018年4月6日金曜日

シビレエイ

名前の通り、触れた者を痺れさせる力を持つ魚である。

痺れは毒によるものではなく、電気による麻痺だ。
体内に左右一対の発電器官を備えている。
この発電器官が体の内で占める割合は大きい。

古代ギリシアではこの魚の電流を利用して、
手術の際の麻酔をかけたと言われている。

各地に様々な種類が生息しており、
発生させられる電圧には差がある。

中には人間を失神させるほどの
強力な電流を生み出すものもいるため、
この魚が原因とみられる事故も発生している。

種類によって見た目は異なるが、
おおむねが、円に近い体とサメの尾を持つ。

泳ぐのは得意ではなく、海底を這うように進む。
速度も出ないがそもそも天敵がいないため、
逃げるために泳ぐ必要がないのだ。

海中で放電できるのだから無敵だろう。

それでも人間には捕獲されてしまう。
ただし、この魚を求めての事ではなく、
網に混ざってしまうのだ。

なお、商業的価値は無に等しいため
捨てられるか魚粉に加工されることになる。

もちろん食べることは可能だ。
身の味は他のエイと大差が無い。

ただし、食べられる部位の半分を占める
発電器官が不味いのだ。

たいした味が無く、油脂も無く、歯ごたえも無い。
水っぽいだけの発電器官を
美味しくいただくことは難しい。

2018年4月5日木曜日

ピグミーマーモセット

アマゾン川上流域に生息する非常に小さな直鼻猿である。

昔は世界最小の猿として知られていたが、
マダガスカル島のピグミーネズミキツネザルの方が
より小さいことが判明している。

猿でありながら手の平程度の大きさしかないのだが、
顔つきは猿らしい。
小鳥のようにチッチッと鳴く。

驚くべきはその食性である。
なんと樹液を舐めて生きている。

歯で樹の幹を削って傷をつけ、
染み出てくる樹液を舐めとるのだ。

ピグミーマーモセットの唾液には
木の再生能力を低下させる成分が含まれており、
より長時間樹液がにじみ出るようになっている。

実際には木の実や昆虫も食べるのだが、
こうした能力を持つあたり、
樹液が主食であると見て間違いないだろう。

さて、とても小さな猿というだけでも
なかなか可愛らしい姿を想像したのではないだろうか。

実際可愛い。
つまり飼育したがる人間は少なくないということだ。

出国許可がある場合には商取引も可能なため、
ペットとして飼育することが可能である。

だが、流通量は少なく、飼育のノウハウも知られていないため、
不用意に入手してもおそらく病気で死んでしまうだろう。

本邦でもいくつかの動物園で見ることができるので、
自分で飼うのではなく、会いに行くのが正解だ。

2018年4月4日水曜日

海胆

ウニはヒトデやナマコ、ウミユリの仲間である。

棘に覆われた少し潰れた球状をしており、
棘を動かして海底を這い回る。

口は接地面に存在し、海藻などを食べている。

本邦やチャイナの沿岸部では好まれる食材で、
高級品として流通していることが多い。

食されるのは精巣と卵巣であり、
精巣の方がより美味である。

すべてのウニに棘があるわけではなく、
中にはすべすべした謎の円盤まで存在する。

長大な棘を持つガンガゼという種類も存在し、
棘には毒があるため注意が必要だ。

多くのウニの棘は先端がそれほど鋭利ではなく
そうそう刺さるものではないが、
ガンガゼの場合は容易に人の皮膚を貫く。

ちなみにガンガゼの毒は棘に存在するため、
食用のウニ同様、精巣と卵巣は食べられる。

逆に棘の少ない種類には体内に毒を持つものが多く、
食用には適さない。

棘ではなく先端が花のような
円盤状になったラッパウニという種類も存在し、
花弁の部分には毒がある。

厄介なことに刺されてもすぐには痛みを感じず、
次第にしびれが生じたり呼吸が難しくなるため、
海中では容易に死に至る。

ガンガゼをわざわざ触ろうとする者はいなくとも、
ラッパウニの場合は危険性を感じさせないため
海中では不用意に生き物を触らない方がいいだろう。

2018年4月3日火曜日

紫蘇

紫蘇とは荏胡麻の仲間の香り高い草である。

紫蘇の蘇という字は、よみがえるという意味だが、
伝説の名医華佗がこの植物から作った薬によって、
食中毒で死にかけていた者を蘇らせたことに由来するという。

葉、種、茎を、蘇葉、蘇子、蘇梗と呼んで漢方薬に用いるが、
解熱、鎮痛、咳止め、便秘の改善、
嘔吐止め、食欲増進の効果が期待されている。

だが、やはり本邦では紫蘇といえば薬味として
料理に用いるのが一般的だろう。

青紫蘇の若葉は大葉と呼ばれ、天ぷらにする他、
料理の見栄えを良くするための付け合わせによく使われる。

さっぱりとした香りのため、
肉類に巻いて調理するのも望ましい。

また、赤紫蘇は梅干し作りに使われ、
梅干し特有の赤色を着けると共に、
防腐効果を発揮する。

紫蘇の実もまた薬味として使われ、
料理の高級感を演出する際に重宝される。

栄養面でも優れており、特にビタミンや鉄分を補強してくれる。

なお、塩漬け紫蘇を乾燥させ細かく刻んだものを
「ゆかり」と呼ぶが、このゆかりは縁のことである。
緑(みどり)ではない、由縁や縁結びの縁である。

紫の一本ゆえに武蔵野の草は皆がらあわれとぞ見る。

という歌が古今和歌集にあるのだが、
伊勢物語においてこの歌が由来と思われる美談が書かれている。

詳しいことをここに長々と書いても仕方がないので省くが、
この話が元で紫はゆかりと呼ばれるようになった。

青草の中、紫の草が一本、それがゆかりの草、紫蘇なのだ。

2018年4月2日月曜日

ワオキツネザル

狐猿の仲間である。
マダガスカル島南部に生息する。
茶色い体毛を持ち、尻尾は白黒の縞模様である。

生物学者はキツネザルにレムールという名を付けた。
レムールとはローマで言うところの死霊レムレースの単数形である。

レムレースはいわゆるポルターガイスト現象などを起こす
悪い霊のことなのだが、何故こんな名前を付けたのだろうか。

そのレムールたちの中でワオキツネザルには
カッタという名が与えられている。
猫である。

死霊猫レムール・カッタというわけだ。
意味がわからない。
不思議である。

冒頭にマダガスカル島南部に生息すると書いたが、
何故かマダガスカル北の小島、コモロ諸島にも生息している。
流木にでも乗って旅立ったのだろうか。
不思議である。

ワオキツネザルは縄張り意識の強い猿である。
手首から分泌する体液を木に付着させ、縄張りを主張する。

だが、匂いを付けてそれでおしまいとはいかない。
彼らは群れ対群れの大規模抗争を行うのだ。
その様はまさに戦争である。

しかし、一番興味深い点は、
この戦争、雌しか参加しないのである。
不思議である。

戦いは赤ん坊を背負ったまま、飛び蹴りを
繰り出し合うという壮絶なもので、
山の尾根などの境界線でよく勃発する。

雄は何をしているかというと、何もせずにぼーっと暮らしている。
だが、その暮らしは気楽なものではない。

群れの中で圧倒的に偉いのは、子を育て戦に出張る雌である。
雄は立場が無い。

雄が食事をしているところに雌が寄って来ると、
夢中で食べていたものをぽいと放り捨てて
どこかへ逃げていく。
雌は当然のようにその食べ物をいただく。

何故このような社会が出来上がったのか、
不思議である。

2018年4月1日日曜日

海鞘

海に生えている植物のような動物である。

突起の沢山ある赤い電球のような見た目であり、
海のパイナップルと呼ばれることもある。

本邦では主に東北地方で食されており、
西側では存在自体を知らない人も多いだろう。

外皮は硬く食べられないため、
内臓を取り出して食べる。

オレンジ色のぷりぷりとした内臓は、
甘み、苦み、若干の酸み、海の塩味が楽しめる。

控えめに言って、日本酒の肴とするために
存在するような味である。

ただし、鮮度が落ちるのが早く、
独特の臭気を発するようになってしまう。

このえぐみが好きだと言う者もあるが、
ホヤを食べたことはあるが好きではないと
答える者の多くは鮮度の落ちたものを食べたのだと思う。

磯臭いものが苦手だという場合は仕方がないが、
ウニやカキが食べられるのなら
ホヤの美味しさもきっと理解できるはずだ。

フランスやチリでも食材として利用されている。
映画「フレンチ・コネクション」において、
ワイルドな食べ方をしている場面があるので
機会があれば観てみてほしい。

さて、ホヤは岩などに根を張るように張り付き、
海中のプランクトンを食べる生き物である。
動きの無いイソギンチャクのようなものだ。

しかし、見た目からは想像もつかないが脊椎動物に近く、
軟体動物や甲殻類、植物とはかなり異なる。

その証拠とでも言うべきものが、ホヤの幼体である。
彼らはいわゆるオタマジャクシとして産まれてくるのだ。

そこから植物然とした見た目に変態するのだから、
世の中分からないものである。

ちなみに、植物のようだと言う点に
拘っているのには理由がある。

ホヤは植物の専売特許とでも言うべき堅い細胞壁、
セルロースを作り出せる唯一の動物なのだ。

ホヤの硬い外皮はセルロースに由来するのである。
食べられるのは内臓だけなので、
間違って外皮を煮込まぬよう注意されたし。