序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年7月9日火曜日

枯草菌

文字通り枯れた草を分解し、
土へと返す細菌のことである。

非常に身近な細菌で、人体にほとんど害が無い。
それどころかいくつかの種類は
有益な効果をもたらす。

菌類は多くの場合、いくつかの形態を持つ。
枯草菌の場合は芽胞という形態が特徴的だ。

芽胞とは菌が繁殖に不適切な環境に置かれた際に、
身を守るために変化する防御形態だ。

枯草菌の芽胞はそこらの細菌と比べ、
非常に強力な耐久力を持っている。

具体的には熱にも酸にもアルカリにも
アルコールにも強い。

このため、枯れ草を煮沸消毒しても枯草菌だけは
死に絶えず、危機が去った後に繁殖し始める。

枯草菌に限らず、菌類は自分たちのテリトリーを
強固に作り上げると、他の菌の侵入を阻む力を持つ。

枯れ草を煮沸することによって枯草菌だけの
環境を作り出すと、他の菌類の繁殖を
妨げることが可能だ。

この効果を利用して、抗生物質が利用される以前は、
細菌性の腹痛の治療に用いられていた。
赤痢や腸チフスなどにある程度の効能があったのだ。

枯草菌は枯れ草に限らずそこら中に存在するのだが、
我々哺乳類の腸内にもよくいる。

特に反芻を行う牛などの動物は枯草菌による分解を
自身の消化能力の補助としている。

さて、有益な枯草菌であるが、その中でもひときわ
人間の役に立つ菌がある。
納豆菌だ。

納豆がどのようにして生み出されたかは諸説ある。
縄文期には既に存在し得たとも言うし、
弥生期の住環境で偶然作り出されたとも言う。

記録として最古のものは室町期の精進魚類物語に
登場する擬人化された納豆、納豆太郎糸重だと
言われている。

擬人化された食べ物が合戦を行うこのおとぎ話に
糸引き納豆キャラが出てくるということは、
この頃にはすでにメジャーな存在だったと
考えてよいだろう。

よく言われている、戦国期に馬の背に乗せて
運んでいた兵糧のうち、米と大豆が腐ったものを
飢えに任せて食ったところ、米を食った者は
腹を壊し、大豆を食った者は平気だったために
納豆が偶然生み出されたという俗説は誤りである。

また、豆腐と納豆の名前は逆なのではないか
という話も、腐の字は本来白くてどろどろしたものを
指すため、豆腐はトウフのことで間違いない。

なお、インドネシアにテンペという納豆に似た
食品があるが、こちらは紹興酒の麹にも使われる
クモノスカビという細菌を使う。

納豆は匂いと食感が苦手という向きも多いが、
非常に優れた食品である。

消化に良く、栄養が豊富で、コストが安い。
前述のように腸内の悪性菌の繁殖を抑制する力も
あるため、苦手でないのならば積極的に食べるべきだ。

虫歯菌や歯周病菌をも抑制するのだから、
多少苦手でも克服した方がお得である。

西日本では伝統的にあまり食べられてこなかったため、
苦手な人が多いようだ。私も幼い頃は嫌いだった。

だが、食べられるようになって損はないどころか、
とても有益なものだ。納豆は。

頑張れ。食べろ。匂いは薬味でごまかせ。
食感は慣れろ。納豆を食べないと損をするぞ。

ただ、例外がある。
日本酒の麹に枯草菌が混じると
スベリ麹という酒造に使えない代物になってしまう。
杜氏や蔵人にとっては禁忌の食物なのだ。

塩納豆や昔の納豆の食べ方なども書きたいが、
いい加減長くなったのでここまでにしておこう。