ヒエは冷害に強い穀物である。
米と比べると小粒で、
パサパサなのに粘り気が強い。
寒さに強いものの、収穫量が多いわけではなく、
脱穀などの手間も稲より大きい。
本邦では米のように炊いて食べられることが
多かったが、食味が悪く、嫌われていた。
稗の字も卑しい、つまり身分の低いという
意味合いを持ち合わせており、
蔑まれてきたことがわかる。
だが、日本書紀に記された五穀のひとつであり、
新嘗祭においても奉納される。
これは、飢饉の際に幾度も人々を救い、
寒冷地での重要な食物であったことを
意味している。
ただし、人々の記憶としては、
飢饉の辛い時に食べたものとして残り、
そういった意味でも嫌われていた。
とはいえ、米の品種改良が進み、農耕技術も発達し、
寒冷地でも十分な稲作ができるようになるまでは、
東北地方や北海道の貴重な食料であった。
特に南部や下北、つまり岩手県北部から
青森県東部において、冷害に強い稗は
無くてはならない食べ物であり、
少しでも美味しく食べる工夫が為されてきた。
アイヌでも文化神が天上より密かに持ち出し
人間に与えた重要な作物として扱われ、
酒造りにも稗が使われていた。
華北や朝鮮半島でも稗は人々の命を繋いできたし、
雲南の少数民族は今でも稗を大切にしている。
麦や粟や黍ほど重視されはしないが、
稗もれっきとした穀物なのである。
なお、明治期に米がどこでも作れるようになり
ほぼ姿を消した稗だが、栄養価が高いとして
現代になって再評価されている。
しかし、前述のように収穫量が多いわけではなく、
加工にかかるコストも大きい。
このため、歴史的に冷遇されてきたこの穀物は、
現在では高価な食材と化している。