序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年7月20日土曜日

モグラ

地中で生活する小型の哺乳類である。

ヒミズやデスマンなど変わった種類もいるが、
今回は一般的なモグラについて紹介しよう。

モグラといえば、地中に自在に穴を掘り、
縦横無尽に移動するイメージが持たれているが、
実際には穴掘りは限定的だ。

彼らの巣穴は一代で築き上げるものではなく、
一族で共有し、子孫に継承される。

つまり、モグラが穴を掘るのは巣穴の拡張と、
破損した箇所を修繕する時である。

モグラの体は小さく、体力もそれほどないため、
穴掘りという重労働を継続するのは難しいのだ。

それでいて、燃費は非常に悪い。
モグラは大食漢で、一日の食事量が多く、
なおかつ、飢餓に弱い。
半日も食べずにいれば死んでしまうだろう。

畑を荒らすことで農業を営む人々から嫌われ、
害獣として駆除されるモグラだが、
作物自体を食べるわけではない。

巣穴の拡張の際に作物の根を破損してしまう、
巣穴に入り込んだネズミなどが
作物の根を齧る、というようなことが真相である。

彼らは肉食動物であり、
ミミズや昆虫を食べて生きている。

地中を掘り進むミミズや昆虫がモグラの巣穴に
行き当たると、巣の中に落下することになるのだが、
それがモグラのメインディッシュとなる。
巣穴は獲物を捕るための罠でもあるのだ。

なお、モグラは巣穴の中に排泄専用の部屋を作る。
つまりトイレがある。

面白いことに、このトイレのある部分の地上には、
アンモニアがあることで有利となる
特定の種類のキノコが生える。

ナガエノスギタケなどのそうしたキノコが
生えている場所を掘ると、
モグラの巣穴を見つけることができるのだ。

さて、モグラという名前だが、
本邦では古くはウコロモチと呼ばれていた。

それが時代と共にムクラモチ、
モグラモチと変わり、今の形となった。

土龍と書いてモグラと読むが、
実はこれは江戸期に誤用されたのが定着したもので、
本来はモグラの主食であるミミズのことだ。

龍は細長いものである。
モグラよりミミズに相応しい名前だ。

前述したとおり畑を荒らすことで害獣とされる
モグラだが、もっと深刻な理由から駆除される。

堤防の強度を低下させてしまうのだ。
これはもう治という人類文明への敵対行動である。

その一方で、モグラの毛皮はその柔らかさから
古くより重宝されてきた。

現代では手間がかかるため
わざわざ小さなモグラを狩り集めたりはしないが、
ビンテージコートなどでは
モグラ毛皮のものが残っているだろう。

最後にモグラに関する誤解をもうひとつ改めておこう。
日光を浴びるとショック死するというものだ。

目の退化したモグラだが、
実は光を感じ取ることのできる器官を持たない。

地上に出たとしても、彼らにとっては
土が無いだけで巣穴の中とそう変わらない。
日光にさらされても気付きすらしないのだ。

ではなぜ、地上で死んでいるモグラがいるかというと、
それは巣穴から追い出され野垂れ死んだ個体だ。

巣穴は一族の宝であるわけだが、
そこから追い出されれば待っているのは餓死である。

一体、どんな悪さをしたら
地上へ追放されるのかは分からないが、
モグラの世界にもルールがあるのだろう。