繊維状の鉱物である。
とても細い石の糸が綿状に絡み合い、
ふかふかとした柔らかさを実現している。
その細さは筆舌に尽くしがたく、
髪の毛など比べ物にならない。
近頃は石綿と呼ぶよりもアスベストと言った方が
人口に膾炙しているだろう。
ギリシア語で「消化できない」という意味なのだが、
恐らく食い意地の張った者がこれを食らい、
消化できずにそのまま出てきてしまったのだろう。
耐久性、耐熱性、耐蝕性、絶縁性に優れ、
軽くて安価なため奇跡の鉱物として重宝されていた。
かつては。
しかし、その細かさのために極小の粉塵と化し、
吸い込めば肺に蓄積されてしまうという
問題が発覚してからは敬遠されるようになった。
おそらく石綿の話題を聞く場合というのも、
アスベスト被害の報道が主だろう。
だが、そうした問題点が発覚するまでは、
人々は様々な用途にこの石綿を使っていた。
特に建物での需要が高く、防音のため、
断熱のため、配線を覆う絶縁体として、
大いに活用されていた。
古代においてはエジプトのミイラを包む布、
ローマのランプの芯などに活用されていたことが有名だ。
また、チャイナでも布として扱われ、
汚れた場合、火にくべると汚れだけ燃えてなくなるという点から、
火で洗う布、火浣布と呼ばれていた。
ヨーロッパでは火蜥蜴の皮と呼ばれ、
鉱物だと知らない者はその神秘性に慄いた。
本邦の古典、竹取物語において、
かぐや姫が求めた無理難題のひとつ、
決して燃えることのない火鼠の皮衣というものも、
もしかしたら石綿がイメージの源泉なのかもしれない。