フグの毒として知られる有名な毒である。
だが、未だに解明されていない部分の多い物質だ。
まずはこの毒で何故死に至るのかを説明したい。
テトロドトキシンは神経伝達を遮断する効果を持つ。
このため、脳から各組織への信号が送られず、
身体は麻痺することになる。
この時に最も影響を受けるのが呼吸器である。
息を吸って吐く、普段意識もせずに行っている
この動作が行えなくなり、酸欠となるのだ。
したがって、人工呼吸などによって毒が抜けるまで
肺に空気を送り続けることができれば、
理論上は救命することが可能だ。
ちなみに有効な解毒剤は現在のところ存在しない。
神経伝達を活性化するトリカブトの毒を摂取すれば、
テトロドトキシンの効果を中和することができるが、
今度は心臓が止まるので結局は酸欠となる。
この毒を持つ生き物はフグだけではない。
そもそもこの毒はフグが生成しているわけではない。
テトロドトキシンを生成する細菌がいるのだ。
一説によると、この細菌は腸内細菌として存在し、
フグや一部のタコ、カニなどに毒をもたらす。
また、そうした有毒生物を食べ、かつ
それらの生物と同様にテトロドトキシンの
影響を受けない生物もこの毒を持っている。
なお、この毒を微量使うことによって、
鎮痛剤とする場合があるらしい。
耐性が付いたり依存症になったりしない
という利点があるそうだ。
テトロドトキシンは蛋白質ではないため、
熱での破壊が難しい。
だが、そんな猛毒が溜め込まれた
フグの卵巣を食べる文化が
本邦の石川県には存在する。
正気の沙汰ではないのだが、
卵巣を長期間糠漬けにすると、
卵巣中の毒が減少するのだ。
実はこの減少する理由が未だ分かっていない。
発酵による分解ではないことは確認済みで、
糠への析出ではないかと言われている。
河豚の子糠漬けと呼ばれるこの料理が
どのようにして誕生したのかは不明だが、
完成までにどれだけの犠牲が出たのだろうか。
似た料理は本邦の他の地域にもあるのだが、
新潟県や富山県なので、おそらくは
製法が伝播したものだろう。
狂気すら感じるフグの卵巣を食ってやろう
という執念を持った人間が各地に多数いたと
すれば、いかれた民族と形容するほかない。
なので、ひとつの製法が伝播してから
各地でアレンジされたのだと思いたい。
本邦の食文化には少なからず、
わざわざ食わずとも良いものを
なんとかして食ってやろうという傾向がある。
それも、他に食うものがなく、
飢えから逃れるために創意工夫したというより、
美食や珍奇性を求めてというケースが多い。
外国人から異常なものを見る目を向けられるのも
致し方ないことかもしれない。
しかし、例えば食中毒の危険性の高い生卵を、
何の心配もなく食べられるようにした執念は、
様々な技術や知識と直結している。
本邦の高い水準の食品衛生を享受できるのは、
飽くなき美食への執念があったからこそ
なのかもしれない。
話が逸れたが、素人がフグを捌いてはいけない。
良く知らない貝やカニも食べてはいけない。
それでも本邦には今後も新しい珍味が
誕生していくのだろうなとは思う。