現在モロッコが実効支配している
西サハラにある大西洋に面した岬である。
かつて世界の果ての島と言われた
カナリアスより南に位置する。
ポルトガルのエンリケ航海王子は
アフリカの南部の探索を進めるべく
航海事業を開始した。
当時は大西洋とインド洋が繋がっているとは
思われていなかったが、
ポルトガルにはある思惑があった。
キリスト教徒たちはサラセン人と
戦争をしていた。十字軍である。
足を引っ張り合うヨーロッパ人に対して、
サラセン人はイスラムで団結し、
しかも進んだ文明を持っていた。
こうした背景から力関係は明白で、
キリスト教徒はサラセン人との戦いに
敗北を重ねる。
だが、ひとつの希望があった。
プレスタージョンの国である。
サラセン人たちの住む土地の向こう側に、
同じキリスト教徒の強国があるという伝説だ。
ポルトガルは、このプレスタージョンの国と
連絡を取り合い、サラセン人を挟撃するために、
アフリカの探索を始めたのだ。
もちろん、アフリカを迂回できるようなら
胡椒を安価に手に入れるルートが
見つかるかもしれないという動機もあった。
航海王子の事業はマディラを発見し、
アゾレスを発見するという成果を挙げたが、
本来の目的であるアフリカの南下には難儀する。
世界の果て、ボジャドール岬を
なかなか越えることができなかったのだ。
ボジャドール岬を越えると、
海は煮えたぎり、湯気が立ち、
怪物たちが跋扈していると言われていた。
それでも進むとそこは文字通りの世界の果て、
天動説的平面世界の最果て、つまり崖っぷちに
辿り着いてしまうと考えられていたのだ。
ボジャドール岬を越えたら生きては帰れぬ。
それがヨーロッパ人たちの共通認識だった。
この岬の辺りでは風向きが変わる。
熟練した船乗りほど、そうした変化には敏感だ。
前述の迷信に囚われていたのも事実だが、
この先に何かがあると、
経験が警告を発してしまうのだ。
だが、航海王子はアフリカ内陸の地理情報から、
ボジャドール岬より先にも
世界が続いていると確信していた。
王子はジル・エアネスという航海士に、
ボジャドール岬を越えるよう命じた。
しかし、エアネスは水夫たちに説得され、
ボジャドール岬まで辿り着くこともなく、
途中で帰ってしまう。
モロッコ周辺でお土産を沢山用意し、
王子の機嫌を取ろうと必死になったが、
当然待っていたのは厳しい叱責だった。
だが、王子はエアネスにもう一度
チャンスを与える。
二度目の挑戦。
エアネスは迷信と水夫の反乱に怯えながら、
ボジャドール岬を通過した。
だが、そこには煮えたぎる海も
世界の果ても存在しなかった。
岬を再度通過して帰ったエアネスは騎士に
叙されている。ボジャドール岬の迷信に
終止符を打った英雄として。
その後、アフリカ沿岸の探索は一気に進む。
造船技術の発達という後押しもあったが、
迷信を打ち破るということが、
どれだけ偉大な成果であったかがよくわかる。
ところで航海王子と呼ばれているが、
エンリケは自分では船に乗らなかったという。
真偽は定かではないが、
船酔いが酷かったためだと言われている。