序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2018年8月1日水曜日

ホンモンジゴケ

苔の中には金属を細胞壁に組み込むものたちがいる。

ホンモンジゴケは東京の池上本門寺で
生物学者に「発見」されたため
この名前を持つ。

ホンモンジゴケは銅を蓄積することができるのだが、
銅というのは実は毒性の強い金属である。
特に植物にとっては致命的だ。

だが、ホンモンジゴケは積極的に
銅の存在する場所に生育する。

おそらく、他の植物が生存できない場所に
適応することで、生活圏を広げる戦略だろう。

さて、銅が存在する場所というと
鉱山のような場所をイメージするかもしれないが、
ホンモンジゴケはその名の通り寺社仏閣に多い。

これは屋根が銅板で葺かれていることが多く、
また、銅像が建てられてことも少なくないためだ。

これらの銅、あるいは青銅の構造物に雨が降り、
雨水に溶けだした銅が壁や地面を濡らす。

前述の通り銅は毒なのでそこに植物は生えないのだが、
ホンモンジゴケだけは活き活きと、青々と茂る。

毒性のある金属と言えば他に
鉛や亜鉛水銀など多く存在するが、
そうした金属を取り込む苔も存在する。

重金属に汚染された土地にそれらの苔を繁茂させ、
苔ごと取り除くことで浄化できないか、
というようなことを研究している人々もいるらしい。

そんな有用性は抜きにして、
ホンモンジゴケは苔マニアから大人気の苔である。

この苔が銅の存在する場所にだけ生えることを知り、
好奇心を刺激されて苔マニアになったという人も多い。

私は苔マニアではないが、苔には強い興味を持っている。
実は私もその契機となったのがホンモンジゴケである。

たまたま手に取った苔の写真集の中で、
ホンモンジゴケに対する情熱が語られていたのだ。

そもそも苔に全く興味が無ければ苔の写真集など
手に取らないと言われれば確かにそうなのだが、
騙されたと思って苔の写真集を探してみてほしい。
きっと魅力を感じるはずだ。

本邦では苔に趣を感じる者が多い。
苔をどう配置するべきか、作庭において重要なことである。
こんな文化がある時点で本邦人は苔好きなのだ。

ヨーロッパ人やアメリカ人は苔を嫌うという。
なんとなく不浄なものだと認識しているらしい。

確かにじめじめした場所、
それも墓場や廃墟でよく見られるものだから
そういう感覚になるのも分からないではない。

本邦は気候風土の関係で苔が多い。
古来、苔を身近に感じてきたからこそ、
苔を好む文化が育まれたのだろう。

苔全般の話になってしまったが、
これを機会に苔を意識してくれると、
苔がちょっと好きな者としては嬉しい。