序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年3月26日火曜日

アドリア海

イタリア半島とバルカン半島の間の海域である。

波の穏やかなこの海は古来、
海運と漁業の場として多くの船が
行き交ってきた。

古代ローマにおいてはラヴェンナを中心とし、
ガレー船からなる海軍の本拠地でもあった。

潮流はバルカン半島側を北上し、
イタリア半島側を南下する。

つまり、ガレー船で移動する際には
この潮流を利用することで
省力化できたのだ。

このローマの裏庭とでも言うべき海は
外敵の侵入が容易ではないため、
安全な海域であった。

つまり、人と物の往来が自由に行える。
繁栄しない理由などないのだ。

ローマの衰退後も繁栄は続き、
ヴェネツィア共和国の経済力によって
その安定は維持されていた。

ヴェネツィアはサラセン人との交易により
ヨーロッパに東方の富をもたらす存在だ。

西側のナポリやジェノヴァとの競合にも
打ち克ち、一時期は強大な力を有していた。

オスマントルコの侵攻に際しても、
ヴェネツィア海軍を中心とする
神聖同盟艦隊は大勝を収めている。

さて、そんなヴェネツィアの繁栄の
舞台となったアドリア海だが、
実は近年深刻な危機に晒されている。

地中海自体が水の出入りの少ない
停滞した海なのだが、その中でも
アドリア海は更に閉鎖的だ。

水の循環の少ないアドリア海に
沿岸各国の生活排水が流れ込めばどうなるか、
少し想像すれば理解できるだろう。

また、北アフリカから吹く強い風、
シロッコという強風があるのだが、
これがサハラの砂を運んでくる。

工業地帯の煤煙とサハラの砂によって、
大気もまた汚染されているのだ。

地中海のアドリア海といえば誰もが憧れる
美しい海の代名詞であるが、
これが実情である。

アドリア海の女王と呼ばれたヴェネツィアも
アドリア海の真珠と呼ばれたドゥブロブニクも
現在では観光に頼る都市である。

アドリア海の汚染が進めば、
海の恵みを受けて成長してきた
沿岸の都市の数々は大打撃を受けるだろう。

トリエステなどの貨物港も他人事ではない。
タンカーのバラスト水が
汚染に一役買っているのだ。

近年では石油や天然ガスの海上プラントも作られ、
汚染は更に進んでいくと思われる。