茶色く地味な蝶である。
シジミ貝のように見えるので
シジミチョウと呼ばれる種類の仲間だ。
シジミチョウの仲間は変わったものを
食べるものが多い。
普通、蝶の幼虫といえば葉を食うものだが、
シジミチョウの中にはアリマキを
食べる肉食のものまで存在する。
そんな中でもクロシジミは、
しばらくの間はアリマキの出す
甘露を食べて育つ。
そうして育つうちに、アリマキの甘露に
ひと工夫加えたものを背中から
分泌することができるようになる。
クロシジミの甘露は蟻にとって
魅惑の味がするらしい。
アリマキの出す甘露など霞むほど、
クロシジミの甘露に夢中になる。
そして、しまいにはクロシジミを
自分たちの巣へと運び込んでしまうのだ。
だが、これはクロシジミの作戦である。
幼虫は自分を巣に連れてきた
蟻の雄と同じ匂いを発するようになる。
蟻の雄というものは、次代の女王が
旅立つ時に随伴し、卵を授精させる
ことだけが役割である。
つまり、普段は巣の中ですることもなく、
働き蟻から世話をされるだけ
されて生きている。
クロシジミの幼虫はその雄蟻に化けるのだ。
働き蟻はせっせとクロシジミの世話をする。
安全な蟻の巣の中で、動く必要もなく、
体の掃除もしてもらえ、
食べ物が運ばれてくる暮らしだ。
甘露を出して蟻にご馳走を提供しているので
そのぐらいはしてもらっても
いいのかもしれないが。
それにしても、生まれてすぐの頃も
アリマキから甘露をくすねていたことを
考えると、本当に横着な虫である。
だが、クロシジミの蟻との生活は
ゴマシジミと比べれば共生と言っていいだろう。
クロシジミとよく似たゴマシジミは
やはり蟻の巣へと運ばれる戦略を持つ。
しかし、そこですることは、
ただ運ばれてくる餌を口にするという
怠惰なものではない。
蟻の幼虫を貪り喰らうのだ。
トロイの木馬も真っ青である。
蟻たちは自分たちの幼虫が
食われていることに気付きもせずに
ゴマシジミの幼虫の世話を続ける。
ホラーではないだろうか。
ちなみに甘露は出さなくなる。
自分たちの子供が栄養源の甘露を
口にすることを想像するとホラー感が
増すのでこのぐらいでいいかもしれない。
なお、クロシジミもゴマシジミも、
ある程度成長すると蟻の巣の出口付近まで
自力で移動してから蛹になる。
羽化すると蟻に擬態する匂いが使えなくなるので、
たちまち蟻から食べ物と認識されてしまうのだ。
なので、さっさと飛び立つ。
他のシジミチョウも蟻と関係の深いものが多く、
甘露を出すことのできるものが少なくない。
好蟻性生物という言葉があるほど、
蟻と関わりを持つことにメリットのある
生き物は数多い。
やはり蟻はすごい生き物である。