序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年3月4日月曜日

辰砂

錬金術において最も重要とされる物質、
硫黄水銀の化合物である。

朱色の結晶体は非常に美しいが、
脆く儚い。

古来、この鉱物は砕かれ赤色顔料として
使われてきた。
神社の鳥居の朱は本来は辰砂の色である。

辰砂の名は現在の湖南省、辰州で採れる
鉱物であったことに由来する。

アラビアの錬金術師たちはこの鉱物を
ペルシア語で竜の血を意味する
ジンジフラーと呼んでいた。

それが訛り、ヨーロッパではキナバーや
シナバーと呼ばれるようになる。

辰砂を加熱すると硫黄は飛び、
水銀が生じる。

赤い結晶体が銀色の液体になるのだ。
神秘を感じるのも当然だろう。

水銀が酸化すると褐色や黒へと色を変える。
硫黄と化合させれば再び赤に戻る。

この化学変化を幾度も繰り返すことを
錬丹と言い、不老不死の霊薬を
作るための工程とされていた。

この錬丹術は恐らく海路あるいは
シルクロードを通じてアラビアの
錬金術師たちに伝えられた。

チャイナの陰陽思想や錬丹術が
錬金術に影響を与えたことは
想像に難くない。

そのアラビア錬金術を継承した
ヨーロッパの錬金術では
硫黄と水銀の力が調和したものこそ
黄金であると考えられた。

すなわち、辰砂とは賢者の石の原型なのだ。