序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年1月6日日曜日

アザミ

トゲの多い野の花である。

そのトゲは鋭く、触れればかなり痛い。
総苞と呼ばれる蕾を包む部分は
まるでウニのようで、葉にもトゲが存在する。

花は明るい紫色をしており、
総苞の上に乗るように咲く。

花弁は細かい針状で、それが密集している。
これは流石に刺さらないが、
見た目としてはとげとげしさを感じる。

スコットランドの国花であり、
イングランド人から土地を守るために
戦った人々の想いが重ねられてきた。

すなわち、侵略者には手痛い報復を与える
独立不羈の精神である。

毒が無い辺りが正々堂々と正面から
戦うという意識がうかがえる。

さて、毒が無いということは
食べることも可能だということだ。

もっとも、毒の無い植物すべてを食べる
わけではないことは言うまでもないが、
アザミの場合、本邦で食用とされてきた。

東北地方や長野の一地方において、若芽を食す。
味噌汁の具や天ぷらは山菜として人気だ。

また、根を味噌漬けにして食べることもあり、
山ごぼう や菊ごぼう と呼んでいる。

ただし、ヤマゴボウは別の植物である。
しかも毒があり、厄介なことにアザミに似ている。

ギリシア神話においては、
アザミは死者を悼む花である。

伝令神の息子であるダフニスは大変な美少年で、
あらゆる存在から愛されていた。

しかし、無条件に他者から愛され続けた彼は
とても傲慢に育ってしまった。

愛の女神の計らいで結婚をするのだが、
一度は愛した妻を冷たく捨ててしまう。

仲人を務めた愛の女神はこの仕打ちに怒り、
ダフニスの目が見えぬようにして罰したという。

盲目となったダフニスはそれでも反省せず、
己の不幸を嘆きながら
川に身を投げて死んでしまった。

身勝手な男だが、それでも愛されていた。
神々や獣のみならず、大地までもが彼の死を悲しみ、
大地はアザミの花を咲かせてその死を悼んだ。

アザミの花にトゲがあるのは、
悲しみを忘れないためなのだという。