その昔、沖合の漁師たちから忌み嫌われる
海の生き物がいた。
蔓草のように漁網に絡まり、
外そうとしてもぶちぶちと千切れ
絡まった部分は取れない。
食べようにも硬くて食べられない
海藻のようなその生き物を、
漁師たちは手蔓藻蔓と呼んだ。
テヅルモヅルはヒトデの仲間である。
ヒトデと一口に言っても実に
多種多様な種類が存在し、
テヅルモヅルはクモヒトデの一種だ。
テヅルモヅルにも非常に多くの
種類が存在するため、
千差万別色々なテヅルモヅルが存在する。
共通点は腕が唐草模様のように
次々と分岐して成長し、
くるくると渦巻いているところだ。
これは海底の珊瑚に絡まり、
潮流に流されないようにするため
進化した結果である。
前述の漁網への絡まりも、
珊瑚と誤認してのことだろう。
その長くもじゃもじゃした腕を
日中は縮こまらせて岩陰に隠れている。
夜になると素早く這い出し、
珊瑚へと絡みついて
潮流によって流されてくる獲物を食らう。
食べるものはテヅルモヅルの種類によって
異なるのだが、おおむねプランクトンや
オキアミのような小さな生物だ。
ほとんどの種類が深海に生息しているため
あまり研究は進んでおらず、
まだまだ分からないことの多い生き物である。
大きいものでは幼児の背丈ほどにまで広がり、
うぞうぞと蠢いている様は
まるで地球外生命体のようである。
英語では籠の星と呼ばれており、
ヒトデの仲間だということが
認知されていた様子がうかがえる。
学名はゴルゴーンの髪の毛を意味する。
ゴルゴーンとはギリシア神話に登場する
恐ろしい者を意味する三姉妹で、
末の妹は有名なメドゥーサだ。
髪の毛の代わりに生きた蛇が頭から無数に生え、
牙と金属のような翼と腕を持つという。
見た者を石にする力もよく知られている。
そんな怪物の髪の毛、
つまり無数の蛇を思い起こさせる姿をした
生き物というわけだ。
話は逸れるがゴルゴーンの首は魔除けとして
様々なものに描かれていた。
これは英雄が切り落とした首を盾に括りつけ、
その石化の魔力を利用したことに因む。
有名なアイギスの盾である。
イージスの盾と英語読みした方が
広く知られているだろう。
ゴルゴーンの顔が描かれた魔除けは
ゴルゴネイオンと呼ばれ、
アレクサンドロス大王の鎧にも描かれていた
ことが、有名ななモザイク壁画から分かる。
話をテヅルモヅルに戻そう。
前述の通り研究の進んでいない生き物のため、
近年においても新種がよく発見される。
昭和帝が残した標本をよく調べた結果、
既知のテヅルモヅルではなく
新種であることが分かった事例もある。
良く知られたことではあるが、
皇族の方々は海洋生物の研究者が多いことを
念のため記載しておく。
ちなみにテヅルモヅルを水族館で見ることは難しい。
研究が進んでいないため飼育が困難なためだ。
潮流の強い深海という環境の再現も簡単ではない。
まだまだ深海には得体のしれない生き物が
数多く存在しているのだろうと思うと
好奇心が刺激されるというものだ。