序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年1月22日火曜日

ヘリオトロープ

太陽に向かうという意味の名を持つ灌木である。

南アメリカ西岸に原産地を持ち、
花は白から紫へのグラデーションが美しい。

本邦では木立瑠璃草、キダチルリソウの
名を持つが、明治期にやってきた。

また、草と名付けられているが、
木立の名の通り木本である。

ルリソウに似ているが草本ではなく
木本であるため木立瑠璃草なのだ。

香水草や匂い紫といった呼び名もあり、
その名の通り甘い香りが特徴的だ。

香りはバニラに似ているのだが、
花の咲き始めに強く香り、
次第に薄くなっていく。

フランスの香水の老舗ロジェ・ガレが
販売しているヘリオトロープブラン
という香水があるのだが、
これは本邦に輸入された初めての香水である。

このため、ヘリオトロープは香水の代名詞となり、
前述の香水草と呼ばれるようになった。

夏目漱石の三四郎にも
ヘリオトロープの香水が登場している。

ただし、天然のヘリオトロープ香油は
わずかにしか採取することができない。

また、その香油は揮発性が高く、
香りを長持ちさせるのは難しかった。

しかし、他の採油性の高い植物油からの
合成香料ヘリオトロピンが同じ香りを
持つことが判明したことで問題は解決した。

以来、ヘリオトロープの香水は
この花の精油ではなく、
合成香料が用いられるようになる。

ヘリオトロピンが使われるようになったのは
本邦で輸入香水が売られ始める前である。

つまり、本邦初の輸入香水
ヘリオトロープブランが
本当にこの花を使っていたかは怪しい。

怪しい話といえば、ヘリオトロープには
ギリシア神話の伝説が存在する。

太陽神に恋をした妖精が変化したという
ものだが、これはキンセンカという花の
物語であり、ヘリオトロープのものではない。

花の図鑑などでも紹介されているが、
誤りだと断言できる。

自明であろう、南アメリカ原産の花が
ギリシア神話に登場するわけがない。

太陽に向かって咲くと信じられていた
この花に、キンセンカの物語が
当てはめられてしまったわけだ。

なお、太陽に向かって咲くというのも
事実ではなく、なぜ生物学者が
そのような名付けをしたのかは不明である。
原産地にそうした伝説があったのかもしれない。

そんなどうでもいい話は抜きにして、
可憐な花とかぐわしい香りを
楽しむのがいいだろう。