非常に甘い芳香で知られる
蘭の仲間の植物である。
中央アメリカ原産で、一年を通して
暑い気候でなければ花実をつけない。
香料としてのバニラはこの植物の
種子から作りだすが、
そのままでは特に香りはしない。
あの甘い香りを生み出すには
発酵が必要となるのだ。
処理を経て甘い香りを放つようになった種子は
バニラビーンズと呼ばれて流通する。
カスタードクリームの中に混じっている黒い点、
あれがバニラビーンズだ。
発酵はあの小さな粒が沢山詰まった
鞘の状態で行われる。
その技術はトトナコ族の
秘伝だったと言われている。
ちなみに、花は一日で落ちる。
この一日の間に特定の蜂が花粉を媒介しなければ
種子が生ることはないため、
栽培の試みが幾度も失敗に終わった。
しかし、ある奴隷の少年が人工授粉法を編み出し、
以来バニラは大量生産されることになる。
現在我々が安価にバニラを利用できるのは
彼のお陰かもしれない。
もちろん、いつかは他の誰かが
考案していたかもしれないが。
さて、フレーバーテキストライターらしい話をしよう。
大量生産が可能となり、
バニラはアイスクリームの
標準的な味となった。
チョコチップだとかキャラメルリボンだとか、
カラフルなシュガーだとか、
特別なフレーバーの無いやつだ。
ありふれたバニラアイスの中に、
かつての高級香料の面影はない。
ここから転じて、バニラとは特徴や特典の無い、
つまらない凡庸な普通の存在を
指す言葉になってしまった。
トレーディングカードゲーム用語に
バニラカードというものがある。
特別な能力を持たない単純なカードのことだ。
一発逆転とはいかないものの、
低コストで数値上の強さがあるため、
好む者は好むのだが、ハズレ扱いされることが多い。
表現されるのはステータスと、
名前と絵とテキストだけ。
だからこそライターとして燃えるものがある。
何の特徴も無くとも、フレーバーテキストで
印象に残っていれば、凡百の中に埋もれはしない。
バニラフレーバーは元来は高級香料である。
このことを念頭に置いて今後も文字を綴ろうと思う。
ただし、敢えて何の印象も持たせず、
弱そうに見せる必要がある場合もある。
情けなさや小者感を表現するのも
大切なことなのだ。
追記
この記事を書いていた当時は知らなかったが、
どうやらバニラの価格が高騰しているらしい。
サイクロンがマダガスカルを襲った影響で
多くの農園が被害を受けたためだ。
バニラの価格はぐんぐん上がり、
銀よりも高くなったという。
サイクロン被害によるものなので
いずれ落ち着くかもしれないが、
農園自体が立ち直れない場所もあるだろう。
天然バニラのバニラアイスが
高級品になってしまうかもしれない。
なお、合成バニラ香料というものも存在する。