インド北西部に生息する毒を持つ蛇である。
ジャコウジカ、ジャコウネコ、ジャコウネズミ、
麝香と名の付く生き物は意外と多いが、
香料が採れるのはいずれも哺乳類である。
ジャコウジカの腹部から分泌する
糞のような臭いの物質を薄めると、
麝香、ムスクと呼ばれる貴重な香料となる。
ジャコウヘビの場合は
その毒を発酵させることで、
麝香によく似た香料が作られる。
スネークムスクと呼ばれ、蛇麝香と訳されるが、
蛇と麝の音が同じため、
蛇香と略されることが多い。
本来の麝香が鹿を殺して香嚢を取り出すか、
穴から掻き出す方法で得られるのに対して、
蛇香の場合は綿を巻いた棒に噛みつかせ、
染み出る毒液を採取するだけでよい。
しかし、ジャコウヘビの飼育は困難である。
臆病な生き物であるジャコウヘビは
飼育環境下では大きな動物、つまり人間に
怯え続けストレスで衰弱してしまう。
従って、結局のところ量産は難しく、
蛇香は希少性の高い香料となっている。
蛇香は麝香同様に男性ホルモンを強めるとされ、
興奮剤や媚薬として用いられてきた。
強心作用も確認されており、
動悸、息切れ、眩暈などに効果がある。
ただし、値段が高いため、薬として使うなら
他の同様の効果を持つ安価なものを
用意した方が良いだろう。
香料としても麝香の方が香りが良いとされ、
生産量も蛇香と比べれば多い。
希少性に重きを置き、
価値を感じるのでなければ、
わざわざ蛇香を手に入れる必要はないだろう。
なお、蛇香の元となる毒は比較的弱く、
血清が無くとも余程のことが無ければ
命までは失うことはない。
ただし、犬や猫が噛まれた場合には
体の大きさに対する毒の量の関係で
死に至るため注意が必要だ。
もっとも、インド北西部の山中にでも
住んでいなければジャコウヘビに
噛まれることなどないだろうが。
ちなみに、蛇香が開発されたのは
近代に入ってからである。
イギリス人医師がインド地域の毒蛇の
毒を調査し、血清の研究を行っていた際に、
偶然作りだされたものだ。
このため、蛇香に当たる現地の古い言葉はない。
英語のスネークムスクがオリジナルの名前である。
当初は貴重な麝香を安価に
生産できるのではないかと期待されたが、
それが難しかったのは前述の通りだ。
一時期本邦でも元気の出る香りとして
流行の兆しを見せたが、高価であり、
蛇が気持ち悪いという向きもあって、
実際に流行ることはなかった。
現在では輸入自体行われていないため、
入手は困難である。