天竺の鼠だがインドにはいない。
ではどこにいるかというと南アメリカである。
特にペルーのテンジクネズミは家畜化され、
食肉用として重宝されていた。
今でも一般的に食されている。
かつてアメリカ大陸には家畜化できる
哺乳類が非常に少なかった。
家畜化にはいくつか条件がある。
餌が容易に手に入ること、
成長が早いこと、人の手で繁殖できること、
群れの中で生活できることなどだ。
アメリカ大陸でこの条件を満たせる
大型哺乳類は犬とリャマと
アルパカぐらいのものである。
狩猟しなければほとんど肉を食えないのだ。
そんな中、ペルーテンジクネズミは
大きさこそ十分ではないが、
家畜化の要件を満たしていた。
狩りに頼らず肉を食べることができる。
これは人の文化の中で大きなことだ。
ちなみに、家畜化された
ペルーテンジクネズミは
モルモットと呼ばれている。
実験動物として有名なあのモルモットだ。
だが、モルモットの名は本邦独自のものである。
英語ではギニーピッグという。
ギニアの豚という意味だ。
ギニアはアメリカではなく西アフリカにある。
持ち込まれた当時のイングランド人が
海を越えた遠くの地を漠然とギニア
と呼んでいたことに由来する。
ドイツ語では海の小さな豚となるが、
これは航海中に食べることのできる
新鮮な肉であったことが理由だ。
本邦へはオランダ人商人によって
もたらされたが、
オランダ語ではカヴィアである。
アンデス地方ではクイやクウェと
呼ばれていたため、
そこから訛ったのだろう。
ではどうして本邦でモルモットと
呼ばれているのかというと、
オランダ商人の勘違いが原因である。
マーモットというリスの仲間と
間違えてもたらされたのだ。
マーモットをモルモットと聞き取ったことで
この名が本邦では定着した。
そして、ポルトガル語やフランス語では
インドの小さな豚を意味する名前になる。
新大陸をインドと誤認した名残だろうか。
その訳語として天竺鼠と相成ったわけだが、
みな適当にすぎるだろう。
本来であればギアナネズミあたりが
妥当な名前なのではないだろうか。
ギニアではない、ギアナである。
さて、モルモットが実験動物とされる理由は
家畜化できることで飼育と繁殖が容易であり、
かつ、他のネズミよりヒトに近い性質を持つためだ。
実験台にされることを
モルモットにされると本邦では言うが、
英語でも実験対象の比喩として使われる。
ソヴィエトでは宇宙開発競争時代に
ロケットに乗せられ地球外に連れ出されている。
なかなか興味深い歴史を持つ生き物である。