序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年6月25日火曜日

キクラデス諸島

ギリシア領の島々である。

南エーゲと呼ばれる領域のうち、
イオニア側がキクラデス諸島、
アナトリア側がドデカネス諸島だ。

キクラデスとは囲んでいるという意味で、
神聖なるデロス島を取り巻くように
多くの島々が存在することに因む。

二百を超える大小の島からなる諸島であるが、
これだけの数の島がありながら、
火山島はミロス島とサントリーニ島のみだ。

地質学者は、これらの島々が元はひとつの
大きな島であったことを証明している。

ただし、それは人の歴史が紡がれる以前の話で、
地中海の変貌の中で変化していった。

だが、この諸島は、一夜にして海底へと沈んだ
アトランティス大陸の伝説の元になっている。

クレタ島でミノア文明が栄えていた頃に起きた
サントリーニ島の大噴火が人々の心に
与えた影響が大きいのだろう。

この噴火は降灰や津波によって
ミノア文明を滅亡へと導いたと言われている。
火山の噴火がひとつの文明を滅ぼしたのだ。

プラトンはアトランティスは大西洋にあったと
書いているが、クレタ島のミノア文明こそが
アトランティスであると考える学者もいる。

さて、サントリーニ島への恐怖は古代人だけの
ものではない。中世の人々にも噴火の記憶は
語り継がれ、不死の魔物の住まう火山島として
恐怖と共に知られていた。

しかし、そうした恐れも次第に薄れ、
十字軍によってギリシア周辺地域に
西ヨーロッパ諸国の影響力が及ぶと、
ヴェネツィア人によって入植が行われた。

噴火によって形作られたカルデラ湾は
東地中海交易の中継点として有益だったのだ。

帆船の時代が終わると、その優位性は失われたが、
エーゲ海リゾートの中心地として
観光業が栄えることになる。

サントリーニ島が恐怖の島であったのに対し、
デロス島は神聖な島として崇められていた。

ギリシア神話の太陽神と月女神が誕生した
場所だとされており、神殿が築かれている。

ミノア文明より古くに栄えたキクラデス文明の
中心地であり、神殿への巡礼者を相手にした
商売が盛んになったことから、
商港としても発展していた。

キクラデス文明の特徴である人面像は、
目や口が省略され、鼻だけが彫られた
特徴的なもので、見た者に強い印象を与える。

まるでモダニズム芸術のような佇まいは、
多くの現代アーティストに
霊感を与えたことだろう。

文明が断絶しているせいで用途不明の
キクラデスのフライパンと呼ばれる
造形物も、想像力を掻き立ててくれる。

なお、キクラデス文明の遺物は
高値で取引されたため、盗掘品や
贋作が出回っているので注意されたし。