序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年6月3日月曜日

ヤカツ

小さな黄色い花が五つばかり
かたまって咲く植物である。

冶葛と書く。

漢方の生薬では鉤吻と呼ばれており、
本邦には奈良期に渡来した。

正倉院には薬品を納める部屋もあるのだが、
鉤吻壺、あるいは冶葛の壺というものが現存する。

解熱鎮痛剤として使われていた薬草だが、
この植物の持つ効能はいささか激しすぎる。

早い話が、どちらかというと毒である。

毒と薬は表裏一体の存在で、
人体に何らかの影響を与える物質
という意味では同じものだ。

それが良い効果であれば薬であり、
悪い効果であれば毒である。

このヤカツも正しい使い方をすれば
効果の高い薬となるのだろう。

だが、はっきり言ってヤカツを薬として
使うのは難易度が高すぎる。

世界最強の毒草とまで言われる植物だからだ。

毒と一口に言っても様々な物質があり、
人体のどの部位にどのように作用するのか、
その物質によって異なってくる。

複数の毒性物質を持つ動植物も珍しくないが、
ヤカツはいわば毒のスーパーマケットである。
含まれる毒性物質の種類がとても多いのだ。

ある毒性物質はある生き物には耐性があるなど、
効かないケースが多々ある。
だが、これだけ豊富に取り揃えられていると
どれかは効き目があるということになるだろう。

つまり、ヤカツの毒で倒れぬ動物を
探す方が難しい。

もし人間が食べてしまったらどうなるか。
様々な異常が起こるが、
最終的には呼吸器の麻痺で死ぬ。

ヤカツのどの部位を食べたかによっても
症状は違ってくるのだが、
根、芽、茎、葉、花、種子、すべて毒だ。

前述の鉤吻、薬として使う場合には
乾燥させた根を粉末にする。

ほとんどの医学書に内服は厳禁と書かれており、
どうやら飲み薬ではなく、
塗り薬として使われていたようだ。

誤飲はもとより、塗り薬が手についたまま
舐めてしまえば事故が起こる。

極めて慎重に扱わなければならぬ
薬だったことは想像に難くない。

どの程度効果があるかは知らないが、
喘息の治療薬にもなると言われている。

喘息は現在でも解明されていない部分の多い
病で、治療が難しい。

医療の発達していない昔であれば
それはもう、治すためならば
毒にも頼りたくなったことだろう。