偽黒初と書く。
クロハツというキノコの偽物という名だ。
傘の上部は灰色から黒で、中心部が窪んでおり、
裏側の襞は荒い。
偽物などと言われるのは心外かもしれないが、
クロハツは美味なキノコとして親しまれており、
古くから食用にされてきた。
クロハツはとても良い出汁が出る。
ただ、いささか繊細な味のため、
キノコ鍋などで他のキノコと共に煮ると、
せっかくの味がぼやけてしまう。
さて、一説によるとニセクロハツの生息域は
昔より広がっており、クロハツしか
生えなかった場所に後から生えるようになったという。
この説が正しいのであれば、
後発のものが偽物呼ばわりされても
仕方がないかもしれない。
なにより、クロハツが美味であるのに対して
ニセクロハツは猛毒を持つのだから、
偽物として忌み嫌われるのも当然か。
なんでも、食べると毒により筋肉が溶かされ、
溶けた物質が更に深刻な毒と化すという。
嘔吐や下痢を繰り返し、意識が朦朧とし、
呂律が回らなくなり血尿が出るらしい。
痙攣が起こり、心臓が止まって死ぬこともあるという。
致死量がそれほど少ないわけではないが、
後遺症が残るため絶対に食べてはいけない
類のキノコである。
腹を下して終わりというわけにはいかない。
ニセクロハツの危険性が知られるようになると、
見分けるのが難しいクロハツを食べること自体を
やめた方が良いという風潮になる。
一応、見分け方はあるのだが、
近くに生えていることも多いので、
誤って混獲してしまう可能性は高い。
なので、クロハツを諦めていただきたい
ということになった。
その影響か、キノコの図鑑などでも近頃は
クロハツのページに毒キノコなので
食べてはいけないと書かれている。
君子危うきに近寄らずという態度は正しいとは
思うが、図鑑に事実と異なることが
書かれているというのはいささか思うところがある。
天然キノコの美味さは筆舌に尽くしがたいが、
美味なキノコとよく似た毒キノコの存在が
キノコ狩りを死と隣り合わせのレジャーたらしめている。
毒キノコの見分けは本当に難しい。
場合によっては新種と遭遇するかもしれない。
命を張って美食を追い求めるのでなければ、
安定供給される栽培キノコで満足しておこう。