鳶と書き、とんび とも呼ばれる。
タカの仲間で、一般的な鷹よりも大きい。
しかし、滅多に狩りを行わず、
動物の死骸を主食とすることから、
古来あまり良いイメージを持たれていない。
鳶が鷹を生むという諺も、
タカよりトビが格下の存在と
見做されてきた証左だろう。
特徴的なのはその飛び方で、
上昇気流と風を巧みにとらえ、
殆ど羽ばたくことなく空を舞う。
ピーヒョロロと鳴く様は詩情に溢れており、
夕日に染まった空を旋回する姿は
ノスタルジーを喚起する。
生息域は広く、アメリカ大陸以外には大概存在する。
特に寒い地域では渡り鳥として冬にはいなくなるが、
本邦では北海道のものも渡らない。
現代社会の人里においては動物の死骸はそう多くなく、
生ごみを食べることが多いのだが、
これはカラスと競合する食料だ。
このため、カラスはトビを見かけると
仲間を集めて威嚇し、縄張りから追い払おうとする。
トビは群れる性質が弱いため、
多くの場合、多勢に無勢でカラスに軍配が上がる。
ところで、鳶に油揚げをさらわれるという諺があるが、
本来であれば警戒心の強いトビが
人間に近付くことはない。
しかし、いつの時代にも野生動物に餌付けをしたがる
者は後を絶たず、人を恐れなくなったトビもいる。
そうしたトビが、人の持つ食べ物を狙うようになるのだ。
今時油揚げを持ち歩く者などいないが、
行楽地で弁当を広げていたり、
食べ歩きをしていると、トビに狙われる。
おそらく、行楽地のトビは前述のように
餌付けをされ、人が自分たちに脅威となる
存在ではないと学習してしまったのだろう。
つまり、トビに弁当をさらわれるのは
間接的な人災なのだ。
野生動物に餌をやる行為は、
このように他者に迷惑をかけるだけでなく、
与えられた動物にとっても様々な悪影響がある。
鳶に話を戻そう。
とび職という職業がある。
主に建築現場で高所作業を行う人々のことだが、
高空を華麗に舞うトビになぞらえこの名でよばれている。
この呼び名が定着したのは江戸期であり、
江戸の街のとび職は火消しとして活躍する
人気の職業であった。
当時の火消しは専業ではなく、
民間の有志が作業を行っていた。
現代のようにポンプで水を掛けられるわけではないため、
破壊消防と呼ばれる、燃えている建物に隣接する
建物を破壊することで延焼を防ぐのが火消しの役割だった。
高所作業に慣れた大工であるとび職は、
屋根の上を軽やかに移動し、
速やかに建物を解体する。
火事と喧嘩は江戸の華などと言われていたが、
とび職はそんな江戸で最高に格好いい存在だったのだ。
現在でも消防署の出初式ではとび職が梯子の上で
演技を行うなど、文化として大事にされている。
こうした伝統が今後も続いていくことを切に願いたい。