バルカン半島、ギリシアの北西にアルバニアという、
本邦での知名度の低い国がある。
ティラナはその首都だ。
ティラナについて書こうと思ったのだが、
アルバニアの予備知識が無い前提では、
旧共産圏のよくある都市程度の紹介になってしまう。
記事の長さの都合上、大変難しい試みではあるが、
アルバニアの概要を説明することになりそうだ。
ここは思い切って古代を飛ばそう。
アドリア海沿岸のオトラント海峡付近なので、
交易上重要な場所だが、割愛する。
中世も大きく省いてしまおう。
ティラナはオスマントルコの
版図となってから発展した街だ。
イスラム教徒が住民の多数を占め、
アルバニアは現在、ヨーロッパで唯一の
イスラム協力機構の加盟国である。
そう、バルカン半島という疑う余地もなく
ヨーロッパであるこの地に、
イスラム系国家が残っているのだ。
この点だけでも面白いのではないだろうか。
ただし、かなり緩いイスラム教国である。
偶像崇拝めいたものや、飲酒や豚肉食が
認められており、とても世俗的である。
だが、時系列が前後して申し訳ないが、
社会主義国家時代に、無神国家宣言という
かなり尖った宣言を世界に発信した。
共産主義においては、宗教は否定される。
だが、人々の伝統である宗教を消し去るのは
並大抵のことでは不可能だ。
ソヴィエトですら、
正教会や仏教を弾圧しきれなかった。
もちろん、無神国家と宣言したからといって、
アルバニアから宗教が無くなったわけではない。
ただ、ソヴィエトですらできなかった宣言を
アルバニアという国はやってのけた。
むしろ、キリスト教ではなくイスラム教が
優勢だったからこそ、強行したのかもしれない。
さらっと書いたが、無神国家とは、
いわば無神論を国教としたような国のことだ。
そもそも、本邦では誤解されがちだが、無神論とは、
私は宗教を信じていませんというような
生ぬるいことではない。
神などいない、私の信じる神がいないだけではない、
お前の信じる神も存在しないのだ、という立場である。
これがどれだけ攻撃的なことか分かるだろうか。
海外旅行中に何の宗教を信じているか尋ねられても、
嘘でもいいから無神論者ですとは言わない方がいい。
相手もそれに近い立場でない限り、
分かり合えない相手だとみなされ、
扱いが悪くなる可能性がある。
しまった、ただでさえ長くなるというのに、
無神論の説明で紙面を食ってしまった。
オスマントルコに時代を戻そう。
古代イリュリア人の子孫を名乗る
アルバニアの人々だったが、自分たちは
オスマン帝国の一員であるという意識が強かった。
それを変えたのは近代の民族主義である。
アルバニア人は自分たちの国家を
持ちたいと考えるようになった。
現在のアルバニア共和国とコソボ共和国、
モンテネグロ、セルビア、マケドニア、ギリシアの一部。
これらの地域をアルバニアとして独立しようと頑張った。
第一次バルカン戦争の結果、帝国からの独立を宣言したが、
ヨーロッパの列強は、上記の大アルバニアを認めなかった。
現在のアルバニア共和国領は
予定していた国土の半分に過ぎない。
しかも、ドイツの貴族を公爵として
迎え入れての独立である。
ちなみに、この公爵、第一次世界大戦時の内戦を受けて
ドイツに亡命し、そのまま帰ってこなかった。
君主がいなくなってしまったのだ。
その後、大統領を立てて共和国になるが、
この大統領、王位に就いてしまった。
そして、この王も逃げた。
イタリアに簡単に攻め取られたためである。
第二次世界大戦では両陣営の入り乱れる混沌を見せ、
結局はパルチザン、つまり共産主義勢力によって
全土の「解放」が行われた。
社会主義国家となったアルバニアだが、
前述のように非常に先鋭的な国家であった。
スターリンのソヴィエトを修正主義と批判し、
仮想敵国とするほどである。
ワルシャワ条約機構も脱退した。
周囲を敵に回したアルバニアは、
特産品の石灰石を活用して国中にトーチカを設置、
首都ティラナ近郊には巨大な核シェルターを建設した。
これだけ尖ったことをしていながら、
食料自給の達成と識字率の超大幅向上もやり遂げた。
識字率の改善度合いは凄まじいものがある。
そして、しまいには鎖国に近い状態になる。
自称「唯一のマルクス・レーニン主義国家」だ。
専門用語が頻出しているが
今回は敢えて解説しない方向でいこう。
なお、中華人民共和国とは良好な関係を築いていたが、
文化大革命が終息すると、これを日和ったと判断し、
中国共産党にも敵対的な態度をとる。
結果的に、ヨーロッパ最貧国になるのだが、
二十世紀もそろそろ終わろうかという頃になって、
ようやく社会主義国家をやめた。
その後も政府が転覆したり、
大統領の立候補者がいなかったりと面白い、
失礼、特異な事例に事欠かない。
一番の特筆事項はネズミ講の蔓延だろう。
社会主義国家をやめてすぐの頃のアルバニアの人々は、
ネズミ講をいわゆる投資活動だと信じてしまった。
そして、斜め上の展開をする。
アルバニアのネズミ講は破綻しなかった。
講の上位の儲けた層が、集めた資金で武器を仕入れ、
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に裏から介入、
武器を売却して得た利益を配当としていたのだ。
もちろん、紛争が終結したところで破綻したが。
裏の武器売買はアルバニアマフィアを伸張させ、
今度は麻薬取引が活発になる。
しかも、社会主義時代に築き上げた集団農業を
放棄したために、せっかく引き上げた
食料自給率は急落した。
とはいえ、アドリア海沿岸である。
鉱物資源も眠っている。
伸びしろは大きい。
政治的混乱、混乱という言葉が可愛く感じるほどの
大混乱を経て現在に至るわけだが、
もし、これが落ち着けば、良好な国勢となるだろう。
まあ、近隣の国家を見る限り、
落ち着くところがあまり想像できないのだが。
随分と長くなってしまった。
そうそう、首都ティラナに観光に行くのは
あまりお勧めしない。
理由は色々あるが、旧共産圏を楽しむなら
もっと良い場所は沢山あるし、
アドリア海を楽しむのなら言わずもがなである。
ただ、料理は良い。実に良い。
古代ギリシア、ローマ帝国、ビザンツ帝国、
オスマン帝国の遺産である。