序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2020年1月4日土曜日

酒虫

サカムシと読む。

シュチュウと読む場合、清代の短編小説集
『聊斎志異』に登場する酒の精のことを指す。
芥川龍之介もその話の翻案を書いている。

サカムシの話に戻ろう。
この虫は、姿はホタルに似ているが
完全に別物の昆虫である。

酒、つまりアルコールはほとんどの生き物にとって
毒であり、忌避すべき物質である。

しかし、この酒虫はアルコールを独自の酵素で分解し、
炭水化物として栄養にすることができる。

もちろん、アルコールが主食なわけではない。
酵母菌やコウジカビなどを好んで食べる。

必然的にアルコールを摂取してしまう機会が増えるため、
これを分解できるよう進化したのだろう。

当然、酒造りの過程で悪さをする害虫である。
だが、酒虫が出るのは美味い酒を
造る蔵だけだという迷信もある。

杜氏や麹屋は、酒虫が出てしまったと、
内心自慢げに愚痴を言うものだ。

中には自尊心を保つために、
出たことにして話を盛る者もいたことだろう。

さて、そんな酒虫だが、死骸を乾燥させたものが、
二日酔いの特効薬になると信じられていた。

アルコールを分解する酵素を持つのだから
一見もっともらしいが、そんな効果は無い。

なぜなら、二日酔いは、アルコールを人間の酵素で
アセトアルデヒドに一旦分解することで起こるからだ。

酒虫の酵素はアルコールを分解するが、
アセトアルデヒドには作用しない。

そもそも人間とは体のサイズが違いすぎる。
仮に効果があったとしても、
かなりの量を食べるはめになる。

小説の酒虫のように大酒飲みにはしてくれないのだ。

酒虫の持つ酵素を研究し、
アルコールに酔わなくなる薬を
開発しようとしている学者もいるらしいが、
酒好きからするとナンセンスな話である。