序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年8月13日火曜日

ハイエナ

犬に似た外見を持つアフリカのサバンナの動物である。

しかし、犬の仲間ではなく、猫に近い種族だ。
ただし、木は登れない。

ハイエナには四つの種類が存在する。
サブサハラに広く生息するブチハイエナは、
一般的にイメージされるハイエナだ。

北アフリカに生息するシマハイエナと、
アフリカ南部に生息するカッショクハイエナは
ブチハイエナよりもおとなしい性格をしている。

アードウルフと呼ばれる種類は他のハイエナとは
異なる点が多いため、今回は説明を省こうと思う。

さて、ハイエナといえば他者の獲物を横取りしたり、
弱った者を狙って食い物にする悪しき存在の
代名詞として知られている。

だが、実際のハイエナの生態は、
こうした一般的なイメージとは異なっている。

シマハイエナとカッショクハイエナは、
他の肉食獣の食べ残しを主な食料としている。

これは横取りをしているわけではなく、
放棄された普通の肉食獣が食べられない
残骸を食べているに過ぎない。

強力なあごと特殊な消化器を持つハイエナは、
骨を食べることができる。

骨は一見するとカルシウムの塊で、
食べられる部分は無いが、中心部には髄があり、
栄養が豊富だ。ハイエナはこれを食べる。
巣穴には非常食として骨が蓄えられている。

また、時間が経過し腐敗が始まった死体も、
多くの肉食獣は腹を壊さぬよう食べるのを避ける。
ハイエナはそれを問題なくたいらげる。

つまり、ハイエナはサバンナのゴミを
きれいに片付ける役割を担っているのだ。
奪い取るなどとんでもない誤解である。

それだけではない。
大型のブチハイエナは自分たちで狩りを行うのだが、
しばしばライオンに横取りされてしまう。

ハイエナは横取りされる側なのだ。

なぜ、こうした誤解が生まれたかというと、
キリスト教的価値観において、
骨や腐肉を貪欲に食らうハイエナが、
悪しき存在と見做された点が大きい。

死肉を漁ることから、
墓を荒らすとも信じられた。

人間の笑い声のような不気味な鳴き声も
マイナスイメージの元だろう。

そして、もうひとつ、キリスト教徒が
ハイエナを嫌った理由がある。

雄のハイエナには大きな肛門腺があるのだが、
これがしばしば雌の性器と見間違えられる。

そして、雌のハイエナは外性器が発達しており、
まるで雄の性器があるように見える。

簡単に言えば、両性具有に見える生き物なのだ。
これをキリスト教徒は悪魔的だと考えた。

天使も両性具有のはずだが、
いかんせん、悪印象が多すぎて
神聖な存在とは思ってもらえなかった。

もちろん、キリスト教が広まる以前も
性のはっきりしない動物として
特異な存在と考えられていた。

残念ながら我らが大プリニウスも
交尾をせずに子を産むことができる動物として
ハイエナを紹介してしまっている。

しかも、他の生き物の動きを止める
妖術のような能力があるとまで書いている。
まるで神話の怪物だ。

なお、アリストテレスは
ハイエナは両性具有ではないと
はっきり著書に記している。

プリニウスは古いアリストテレスの著書よりも、
自分と同時代の人々の語った話を信じたようだ。

昔の人の記録よりも、最新の情報の方が
正しいと考えるのも致し方ないかもしれない。