序説

序説

かの偉大なる博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスに倣い、 聞きかじった内容を元に森羅万象を書き記すものである。 なお、各項目に記す内容の真偽は検証せず、 嘘、大げさ、紛らわしいことを恐れずに執筆していくため、 読者諸兄はこの点に留意していただきたい。 物事を伝...

2019年4月2日火曜日

硼砂

ホウ素とナトリウムの化合物として
存在する鉱物である。

ほうしゃ と読む。

名前はなんとはるか遠いペルシアに由来がある。
ペルシア語でこの物質はブラーと呼ばれていたのだが、
これは白色に関係する名前だ。

これが東アジアへ伝わり、蓬となる。
蓬は呉音ではブの音になる。

本邦へ伝わった際には蓬砂となったが、
いつしか硼砂へと置き換わった。
蓬も硼も漢音ではホウである。

さて、この硼砂、本邦ではほぼ産出しない。
干上がった塩湖で採取されるためだ。

近代までは鍛冶屋や陶工や錬金術師ぐらいしか縁がなく、
利用は少なかったのだが、
ガラスの素材として有用であることがわかり、
重要な資源の地位へと躍り出た。

鍛冶屋が何のためにこの物質を使っていたかというと、
熱によりガラス質へ変化した硼砂は鉱石の中の金属以外の
不純物と結合しやすい性質を持つようになるため、
融剤として重宝されたのだ。

また、同じ性質を利用し、陶器の釉薬に混ぜることで、
金属の発色を促すことができる。

錬金術師が古くから知られるこの物質を
解明しようと様々な実験を繰り返したことは
言うまでもないだろう。

そうした実験によって防腐効果があることが
判明しており、木材を保護するニスの
材料としても用いられるようになった。

現代でもごく普通の人々にとって硼砂は馴染みがない。
しかし、一度は触ったことがあるかもしれない。

というのも、子供の化学的玩具である
スライムの主要な材料なのである。

スライムはゴムの代替品を模索する実験の中で生まれた。
結果的に何の役にも立たなかったが、
その不思議な感触をアメリカの玩具メーカーが
子供向け玩具にしようと思い立った。

本邦でも人気を博し、現在でも自分で作れる玩具として
一部の子供たちを虜にしている。

私の知り合いの娘もスライム作りが趣味であり、
色とりどりのスライムを日々制作しているという。

小学生の女の子が薬局で硼砂を買い求め、
父にビーカーや刷毛をねだるというのは
さすがに珍しい事例かもしれない。